2024年3月の倒産見通し

エコノミックリサーチ

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2024/03/28

パンデミック後の調整か、 それとも不利な新常態か?

概要

  • 2023年には倒産件数が急増し、グローバル・インデックスは32%の増加を示した。ほとんどの市場において、この増加は3年間続 いた低水準の後、パンデミック後の調整が続いていることを反映している。その他の市場については、倒産件数はパンデミック発生 前を上回る水準で安定しており、企業が金利上昇と需要減少に直面するという不利な新常態の出現を示唆している。
  • 2024年と2025年の予測は、正常化がまだ進行中の市場ではパンデミック以前の水準への調整の度合いによって、また、ニューノー マルへの安定化がすでに起こっている市場では純粋に経済的要因によって左右される。
  • 全体として、2024年には世界全体で16%の増加が見込まれ、次いで2025年には1%のわずかな減少が見込まれる。
  • しかし、市場によって成長率には大きなばらつきがある。低水準からの調整がまだ必要な市場(シンガポール、イタリア、オラン ダ、ポーランド、米国など)では高い伸びを予想する。
  • 逆に、倒産件数がすでにパンデミック前の水準を上回っている市場(韓国、アイルランド、カナダ、フィンランドなど)では、高 い減少率を予想する。
  • 最後に、倒産件数が安定していると思われる市場(チェコ共和国、オーストリア、ベルギー、ルーマニア、ノルウェー、英国な ど)では、変動が小さくなると予想する。

 

厳しい経済状況が企業の「正常化」を 曇らせる

経済活動の低迷とパンデミック時代の支援策の段階的廃止と いう二重苦に企業が取り組む中、世界の倒産件数は急増して いる。2023 年に 32%という驚異的な伸びを示した倒産件 数は、事実上 2019 年の水準に戻っている。しかし、破産件 数が安定するのはまだ先のことだ。それどころか、2024 年にはさらに 16%もの大幅な増加が見込まれ、その後 2025 年には安定すると予想される。

ほとんどの市場では、パンデミック後の倒産件数の急増がまだ続 いており、これがパンデミック後の調整なのか、それとも不利 な新常態への安定化につながるのかを評価するのは難しい。

パンデミック時には、政府支援の結果、ほとんどすべての市場 で倒産件数が大幅に減少した。したがって、直近のデータにお ける倒産件数の増加は、パンデミック後の調整によるところが 大きいと思われる。しかし、ごく一部の市場では、倒産件数が パンデミック前よりも高い水準で安定していることが確認され ており、現在の経済環境もまた、不利な新常態の形成に寄与し ていると考えられる。

パンデミック後の景気回復はほぼ一巡し、世界経済は勢い を失いつつある。インフレ率は緩和しているが、まだ目標 金利まで自信を持って到達していない。そのため、中央銀 行はまだ政策緩和に慎重で、少なくとも今春後半までは高金 利を維持している。したがって、金利上昇による企業のプ レッシャーは今年も続き、金融政策の遅効性を考えると、 緩和されるのは2025年になってからかもしれない。例え ば、米国とユーロ圏の最新の銀行貸出調査では、今後数ヵ月 間に企業の貸出基準がさらに厳しくなるとの見通しが示さ れた。パンデミック(世界的大流行)時に多くの企業が蓄 えた資金バッファーは、今やほとんど使い果たされている ため、企業にとってはさらに大きなプレッシャーとなる。 より広範な景気減速の影響を緩和する余力が少なくなって いるため、今後数年間は倒産件数が増加すると予想され る。

2023年は全体的に倒産件数が増加する が、市場によってばらつきが大きい

本レポートでモニターしている 29 市場のうち、24 市場が倒産 件数の増加を記録した。2023 年の倒産件数のスナップショット をより見やすくするため、2 つの側面から市場を分類した。ま ず、2023 年の倒産件数の伸び率によって「安定」と「悪化」に 分類する。成長率が-15%/+15%の範囲にある場合は「安定」、 15%を超える場合は「悪化」とする。成長率が-15%より低い国 は存在しないので、「安定」グループと「悪化」グループはサ ンプルに含まれるすべての国をカバーしている。

第二に、パンデミック発生前と比較した2022年の平均支払不能 水準によってグループ分けを行う。このことは、2023年の動態 がパンデミックに関連した調整によるものか、高金利や需要の 低下といった経済環境の追加的要因によるものかを解釈する上で 重要である。パンデミックの期間中、政府の強力な支援の結果、 ほぼすべての市場で倒産件数が減少した。したがって、パンデ ミック前と比較して2022年の倒産件数が依然として低水準であ ることは、2023年のプラス成長率がパンデミック前の水準への 調整に寄与していることを示している。

2019年の平均支払不能水準を基準とする。ある市場の倒産件数 がこの基準水準の少なくとも95%に達している場合、その市場 の倒産件数を「平年を上回る」と分類し、逆の場合は「平年を 下回る」と分類する。

この2つの分類を適用すると、各国を4つの象限に分類すること ができる。さらに、パンデミック前と比較した特定市場の全体 的なリスク度を評価するために、2019年の平均支払不能水準に 対する 2023 年の平均支払不能水準を図2 で計算する。

図1 2023年に債務超過が悪化するのは、パンデミック前と比較して 債務超過レベルが低い状態で始まった市場がほとんどである。

 

図1 2023年に債務超過が悪化するのは、パンデミック前と比較して 債務超過レベルが低い状態で始まった市場がほとんどである。

 

図1からの主なメッセージは、パンデミック前と比較して債務 超過水準がまだ低い市場の大部分で、2023年に債務超過が悪化 したということである。言い換えれば、全体として見られる 支払不能の悪化は、パンデミック前の水準への正常化に依然と して大きく関係している。このことは、「悪化」とマークさ れた市場の大半が北西の四分円に集まっていることからもわか る。ここで最大の調整を経験したのは、オランダ、米国、香 港、日本、フランスで、いずれも2023年初頭の倒産件数が非常 に少なかった国である。図2は、これらの市場のほとんどで、 2023年になっても倒産件数がパンデミック前の水準を下回る か、わずかに上回ったことを示している。したがって、デフ ォルト・リスクはパンデミック前と同程度にとどまった。そ れでも、スウェーデン、アイルランド、オーストラリアとい ったいくつかのケースでは、支払不能件数がパンデミック前の 水準を大幅に上回り、デフォルト・リスクが高まっていること を示している。

図2 パンデミック前と比較した2023年の平均支払不能水準は、依 然として市場によってかなり異なる

 

図2 パンデミック前と比較した2023年の平均支払不能水準は、依 然として市場によってかなり異なる

 

図 1 はまた、2023 年の倒産水準がすでにパンデミック前の水準 を上回り、2023 年にさらに上昇した市場が少数派であることを 示している。このグループには、韓国、フィンランド、カナダ の 3 カ国しか入っていない。図 2 は、これらの市場が 2023 年 の全体的なデフォルト・リスクで上位にランクされ、パンデミ ック前に比べてかなり高くなっていることを示している。われ われの解釈では、これらの国々における債務超過の急増は、パン デミック期を通じて存続したゾンビ企業の債務不履行によるもの であるため、比較的短期間である。ゾンビ企業とは、平時であれ ばデフォルトに陥っていたが、パンデミックに関連した政府の 支援によって救われた企業と定義する。次に図 1 を見ると、倒産 が安定しているように見える国がかなりあることがわかる。南 東の四分円には、パンデミック前の基準値前後またはそれ以上の 水準で債務超過が安定した国々をまとめた。ここでは、トルコ、 英国、スイス、スペインが、2019 年と比較して 2023 年の倒産 件数が特に高い水準にあることに注目する。我々は、これらの国 の倒産件数は、パンデミック前よりも高い新常態に達したと解釈 しているが、これはこれらの国が直面している不利な経済状況に よるものである。

逆に、南西の四分円には、倒産件数がパンデミック前と比較し て低水準で比較的安定していた5カ国のグループが見られる。 私たちの解釈では、パンデミック中に企業が獲得した流動性 をより適切に管理することができたと考えられる。ベルギ ー、シンガポール、ポーランドでは、倒産件数は増加した が、そのペースは緩やかであった。ブラジルでは、パンデミ ックの初期に倒産が安定した。

2024年と2025年の展望:パンデミッ ク後に残る調整と新常態への安定化

次に、2024 年と 2025 年の倒産予測について、前年比増減 率(例:2024 年の倒産総額と 2023 年の倒産総額の比較) で示す。

図3は、全市場および地域レベルで集計した予測である。世 界全体では、2024年の倒産件数は前年比16%増加すると予測 している。北米の倒産件数は比較的大幅に増加すると予想さ れ(25%)、これは事実上米国が牽引している。欧州につ いては、大半の欧州諸国における倒産正常化のプロセスが より進んでいるため、12%増とやや小幅な増加を予想して いる。アジア太平洋地域については、一部の市場(韓国な ど)での高水準からの正常化と、他の市場(シンガポール など)での低水準からの正常化がほぼ相殺されるため、全 体としては2%の減少にとどまり、比較的安定した展開が予 想される。2025年には、北米を除く全地域で倒産件数が減 少し、1%の微減となる。

図3 地域別では、2024年に倒産件数が最も増加するのは北米である。

 

図3 地域別では、2024年に倒産件数が最も増加するのは北米である。

 

図4 は、2024 年と 2025 年の倒産予測を国別に示したもの である。2024 年の成長率がより大きな変動を示すため、 成長率の高い順に市場を並べている。これは、パンデミッ ク関連の調整の大半が 2024 年に起こると想定しているた めである。したがって、2025 年の予測は、そのほとんど が正常化された環境に関連したものであり、市場全体の GDP の動態によって与えられる。

図4 2024年から2025年にかけても、倒産件数の動きは市場によっ て大きく異なると予想されるが、これは主に2023年末のコロナ前 の水準への調整のばらつきを反映している。

 

図4 2024年から2025年にかけても、倒産件数の動きは市場によっ て大きく異なると予想されるが、これは主に2023年末のコロナ前 の水準への調整のばらつきを反映している。

 

2024年の倒産増加率が最も高いのは、イタリア、シンガポー ル、オランダ、ポルトガル、ポーランド、米国である。これ らすべての国の倒産件数は、図2ですでに示したように、2024 年の開始時点ではまだ正常水準を下回っている。従って、これ らの市場では2024年に倒産件数が大幅に増加し、正常化が達成 されると予想される。イタリアは、2023Q3までの最新データ で正常化の兆候が見られなかった唯一の国であり、このグルー プでは例外である。しかし、2023Q4から正常化が始まらない とする理由は見当たらない。

一方、2024 年に倒産件数が最も減少する国は、韓国、アイルラ ンド、カナダ、フィンランドである。これらの国は 2023 年に 倒産件数が急増し、パンデミック前よりも高い水準に達した。 従って、2024 年には正常化すると予想される。

最後に、図4の中間に位置する市場については、2024~2025年 の倒産件数の伸び率は比較的小さい。これらのうちいくつかは 倒産件数がピークに達しているようであり、2024年から2025 年にかけて倒産件数が正常化すると予想される(日本、スウェ ーデン、フランス、ドイツ、デンマーク)。その他について は、倒産件数はパンデミック後の平年並みに安定しているよう であり(チェコ共和国、オーストリア、ベルギー、ルーマニ ア、ノルウェー、英国)、その推移はほとんど経済環境のダイ ナミクスに左右される。

 

 

Iulian Ciobica, エコノミスト

iulian.ciobica@atradius.com

+31 20 553 2121

 

Dana Bodnar, エコノミスト

dana.bodnar@atradius.com

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