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倒産動向見通し - 2025年10月

貿易摩擦が破産件数の増加を招く
8 Oct 2025

世界全体の倒産件数は、2025年に5%増加し、その後、2026年には前年比3%減少すると言われています。

2025年、本レポートで取り上げる29の市場のうち、18の市場で倒産件数の増加が見込まれています。これは、倒産件数が大幅に増加した2024年(すべての市場で前年比19%増加)に続く数値です。この倒産件数の増加は、投入コストの上昇、高金利、コロナ禍の政府による経済支援措置の終結など、厳しい経済状況が要因となっています。2025年の第1四半期から第3四半期のデータは、倒産水準が4月の経済見通しを上回っていることを示しており、こうした厳しい状況が従来予想されていたよりも続くことが明らかになりつつあります。さらに、世界経済は緊張が高まる兆候を見せ始めており、大幅な関税率の引き上げ、経済政策の不確実性により、経済成長が予想を下回る結果となっています。

2026年に向けて、各企業は新たな経済環境に適応していくものと予想されます。また、米国を除くと、関税がインフレに与える影響は限定的であると考えられます。米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が2025年と2026年にさらに数回の利下げを実施する可能性が高いため、企業の財政状況は改善するものと思われます。ユーロ圏では、2025年の残り期間と2026年には追加利下げが見込まれないことから、財政状況は概ね、安定を維持すると予測されます。

貿易関税と不確実性が成長の足かせとなる

世界的に見ると、2025年には2.7%、2026年には2.5%という経済成長が予想されています。これにより、2026年の見通しは前年4月の倒産件数の予測と比較すると、0.3ポイント下方修正となります。今年の世界経済は、不安定な経済政策や貿易関税率の引き上げに直面しながらも、レジリエンス(回復力)を示しました。これは主に、関税率の引き上げを見越して、企業や一般家庭が取引や経済活動を大幅に前倒しした結果です。高い在庫量に加え、コスト上昇分を消費者への価格に転嫁する代わりに、企業はこれまで利益率の低下を受け入れてきました。2026年は、特に米国において、関税率引き上げによるマイナスの影響がより明確に現れると予想されます。

米国の全輸入品に対する実効関税率は現在18%を超えており、1930年のスムート・ホーリー関税法以来の最高水準に達し、2024年の2%未満から大幅に上昇しています。4月上旬から延期されていた関税の適用は、8月上旬に発動されました。EU、日本、英国は関税率の引き上げ(それぞれ15%、15%、10%)を回避する合意を確保しましたが、インド(50%)、ブラジル(50%)、カナダ(USMCA非準拠品に35%)は合意に至りませんでした。メキシコとの交渉は継続中であり、中国に対する30%の関税引き下げを伴う貿易休戦はさらに90日間延長され、11月10日までになりました。「ニューノーマル」の関税体制が形成される一方で、貿易戦争の今後の進展は不透明なままです。

米国経済については、当 社は、2025年に1.9%、2026年に 2.0%の成長を予測しています。関税率の引き上げと政策の今 後の不確実性により、両年度とも前回の倒産件数見通しと比 較して、累計0.6ポイントの成長率下方修正を行いました。消 費者支出は2025年上半期も引き続き増加しましたが、その伸 び率は2024年の平均よりはるかに緩やかでした。特に、関税 戦争が勃発した2025年第2四半期には、投資が明らかに減少 しました。

ユーロ圏は、関税の影響が顕著になるにつれて、2025年に1.2%、2026年には0.8%という緩やかな成長が見込まれています。2025年、ユーロ圏の主要諸国の中で最も成長率が低いのがドイツです。ドイツの大規模産業セクターの短期展望は、関税率の引き上げと長引く不確実性が海外需要を圧迫し、依然として厳しい状況です。一方、南ヨーロッパ諸国は、観光セクターの成長、労働市場の回復、財政支出に牽引され、比較的堅調なGDP数値を示しています。オランダの場合は、前回の展望とほぼ同じ数値を示しています。4月の関税発効を前に米国向け輸出が前倒しされたことで、第1四半期の成長は予想を上回ったものの、今年残りの期間の成長は引き続き低調が続く見通しです。

主要な中央銀行はインフレ率の低下に対応し、金融政策の緩和路線に乗り出しました。欧州中央銀行(ECB)は2024年半ば以降、さまざまな利下げを実施しています。当社は、インフレがさらに低下する明確な兆候が確認できた時点で、欧州中央銀 行(ECB)が追加利下げを実施するものと考えています。2025年と2026年のユーロ圏では、追加利下げは行われないというのが当社の想定する基本シナリオです。連邦準備制度理事会(FED)は、9か月間の政策金利の安定期間を経て、2025年9月に25bpsの利下げを実施しました。最近の米国のインフレデータは関税の影響が一部表れているものの、雇用統計は予想を下回っています。FEDは、雇用促進と物価安定という二重の使命を負っているため、欧州中央銀行(ECB)よりも労働市場データを重視しています。2025年はさらに25bpsの利下げが1回、2026年にはさらに数回実施されると予想しています。

短期的に見ると、不安定な経済状況が長引き、企業の融資が制限されるという影響を受ける可能性があります。全体として、ユーロ圏の企業向け融資の与信基準は、2025年第2四半期もほぼ変化はありませんでした。経済見通しに関連するリスク認識は、引き続き与信基準の引き締めにつながりました。一方、銀行間の競争圧力は緩和効果をもたらしました。米国では、銀行があらゆる規模の企業に対する商業・産業融資の審査基準を厳格化したとの発表がありました。同時に、2024年に実施された金融緩和策がゆっくりと効果を発揮し、ある程度の余裕がもたらされると思われます。全体として、政策の不確実性によって重大な下振れリスクは残るものの、2025年の残りの期間、企業にとって財政状況は有利になると思われます。

2025年の第1四半期から第3四半期にかけて、大半の市場で倒産件数が増加

2024年、世界的に企業の倒産件数が大幅に増加しました(前年比19%増)。最新のデータによると、2025年の第1四半期から第3四半期にかけて、大半の市場で倒産件数の増加が続きました。図-1は、前年同期比で今年上半期の成長率を示しています。当社が観察(注視)する29の市場のうち、18の市場で倒産件数の増加が記録されました。

その多くは、4月の見通しでは予測されていなかった急増に よるもので、国によって異なる動向を反映しています。スイ スの倒産件数の増加は、2025年1月1日に施行された破産法 の大幅な改正に関連していると見られています。法の改正に より、公的機関は債務の未払いを根拠に、企業の破産手続き を開始できるようになり、法人と民間債権者が同等の立場で 処理されるようになりました。フィンランドでは、景気減速 が続いている上、2024年の付加価値税の引き上げ(消費者 にコスト増を転嫁できない中小企業にとって特に負担となっ ている)がさらなる圧力となっています。韓国では、コマー シャルペーパー (CP) 発行や企業向け融資の債務不履行が急 増しており、景気後退の中で財政状況が悪化していることを 示しています。ドイツでは、企業は特に需要の低迷、コスト の上昇、そして政策の不確実性の継続に苦戦しています。そ の結果、2025年前半の企業の倒産件数は過去10年間で最悪 のレベルに達しました。当社は、ドイツの経済状況が安定化すると予想していたものの、予想以上に悪化傾向が長引いています。

フランスとオーストリアでも、2025年の第1四半期から第3四半期にかけて、倒産件数が上昇しました。上昇率は比較的緩やかで、4月に予測した見通しと概ね一致しています。経済成長は低調であるにもかかわらず、脆弱な企業はすでに市場から撤退したと見られています。これによって、企業の倒産件数は安定した水準になり、回復への道が開かれる見通しです。

オーストラリアでは、2025年初頭の上昇が影響し、倒産件数の前年比増加率が比較的高い状態が続いています。ただし、四半期ベースで見ると、倒産件数は減少傾向に転じています。これは、オーストラリア準備銀行による継続的な利下げ政策を背景に、景気後退の底を脱した可能性があることを示しています。

イタリアとシンガポールは状況が異なり、倒産件数の増加はほとんどがパンデミック時の異常な経済低迷が正常化したことを反映しています。イタリアの動向は緩やかで、パンデミック発生前の水準に向かって推移している一方で、シンガポールでは急激に上昇し、パンデミック発生前の基準値を上回っています。シンガポールでは、事業費の高騰、不透明な顧客需要、キャッシュフローの逼迫が相まって、企業にとって厳しい状況が続いています。

しかし、一部の市場では変化や下落傾向はほとんど見られず、世界的な逆風にもかかわらず、回復力が強いことが浮き彫りになっています。米国では、関税率引き上げによる圧力がかかったにもかかわらず、企業の倒産件数はほぼ横ばいの状態が続いていました。企業側が関税率の施行を見越して在庫を増強したことで、関税の悪影響は短期的には吸収されました。英国では、倒産件数も安定していましたが、パンデミック発生以前の水準を上回る状態で、Brexit(EU離脱)後の企業環境が厳しくなったことを反映しています。

ポーランドとポルトガルでは、力強い成長に支えられ、倒産件数は依然としてパンデミック前の水準を下回っています。デンマークとオランダでは、最近の変動にもかかわらず、倒産件数はパンデミック後のピークを下回った状態が続いています。一方、カナダでは、米国との貿易摩擦が続いているにもかかわらず、2024年に記録した高い水準から正常化が進んでいます。

2025年の倒産件数は増加傾向が継続し、2026年に若干減少する見込み

前章では、2025年の第1四半期から第3四半期にかけての倒産件数の動向について説明しました。次に、2025年度および2026年度の年間倒産件数予測を、前年比の変動幅(対2024年比の2025年の合計)で見てみましょう。

世界の倒産件数は2025年に5%増加すると予測されており、これは2025年4月のベースラインシナリオで想定した結果よりも悪いものの、最悪の予測よりは良好な見通しです。2026年には、企業の倒産件数は3%減少すると予想されています。これまで、ほとんどの市場で最近の最高値から徐々に下落すると予想していましたが、この調整は若干遅れています。貿易関税率の引き上げと政策の不確実性が複合的に影響し、短期的には破産水準が上昇を続け、それまでの下降傾向から変化しています。最近の貿易協定によって関税をめぐる不確実性の一部が解消され、財政状況も比較的良好であることから、2026年には倒産件数が減少すると予測されています。

図-2は、当社の世界全体および地域別予測を示しています。2025年4月の見通しと比較すると、すべての地域で見通しが上方修正されています。北米では、関税が米国とカナダの経済を圧迫するため、2025年と2026年の両方で5%の着実な増加を見込んでいます。欧州では関税の影響が比較的深刻ではないため、倒産件数は2025年に3%増加した後、2026年には7%減少すると予測されています。アジア太平洋地域では、脆弱な財政状況や新型コロナウイルス関連の債務の蓄積による影響を考慮し、2025年は7%の増加を予想しています。2026年には、企業の倒産件数が過去最高水準から減少するにつれて、急激な20%の減少が続くと予想されます。

以下のサブセクションでは、各地域における主要な動向を詳述する。図-3には、観察対象の市場全体における2025年と2026年の年間成長率を示しています。

北米

米国における倒産件数は、2025年は6%、2026年は7%の増加と予測されています。この数値は、2025年4月の見通しで想定していたよりも、倒産件数の増加が大きいことを示しています。7月と8月の初期データは、この2か月間に急激な増加があったことを示唆しています。企業の倒産件数が継続的に増加しているのは、債務負担の増大と高金利を反映して、企業の流動性悪化が主な要因であると考えています。同時に、企業は家計消費の減速、依然として続くインフレ、関税による不確実性といった逆風に直面しています。関税率引き上げの効果がサプライチェーン全体に遅れて波及し、コストを上昇させ、新規設備投資を抑制するため、2026年にはさらに倒産件数が増加すると予想できます。

カナダの状況は少し異なります。2024年、高金利と新型コロナウイルス関連の債務返済が原因で、企業の倒産件数はピークに達しました。それ以降、企業の倒産件数は部分的に正常化(減少傾向)しています。しかし、最近では、関税率の引き上げと経済政策の不確実性がカナダ経済に重くのしかかっているため、この調整は行き詰まっているようです。2025年の残りの期間において、企業の倒産件数は概ね横ばいで推移すると予想されますが、これはコロナ禍以前の水準と比較して高い水準を示しています。2024年の倒産件数が例年より非常に多く、当社の予測では、2025年は前年比17%の減少が見込まれています。2026年、経済は新たな関税状況に適応していきます。その後、正常化プロセスが再開され、倒産件数がさらに14%減少すると予想されます。

欧州 

近年の倒産動向に基づいて、欧州各国を2つの主要グループに分類します。第1のグループには、オーストリア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、スウェーデンが含まれ、2022年以降、これらの国では企業の倒産件数が増加し、2024年または2025年初めにピークを迎えます。この急増は、金利上昇、新型コロナウイルス感染症関連の債務返済、投入コストの増加、経済政策の不確定性が複合的に作用した結果で、倒産件数のレベルはパンデミック以前を大きく上回っています。金利が緩和され、財政状況が改善されるとともに、脆弱な企業が市場から撤退していることから、2025年後半には倒産件数が減少し始め、2026年は通年で減少傾向が続くと予想されます。

最新のデータですでに下降傾向を示しているアイルランドとスウェーデンは、2025年はそれぞれ14%と10%の大幅な減少が見込まれています。正常化プロセスは2026年まで継続するとともに、アイルランドではさらに20%、スウェーデンでは17%減少が見込まれます。

ドイツでは、倒産件数が2015年以来の最高水準に達していますが、調整はこれから始まる可能性が高いと思われます。2025年には9%の増加が続き、2026年には19%の大幅な減少が予想されます。2026年に想定されるこの減少は、パンデミック終結後の数年間に競争力を維持するのに苦労した企業の淘汰が完了したという事実を反映しています。

フランスの状況はドイツに近く、倒産件数は2022年以降、着実に増加しています。しかし、最近のデータはわずかな鈍化を示しており、これは、2025年後半から始まるコロナ禍前のレベルに向けた段階的な調整の始まりと当社は解釈しています。全体として、2025年のフランスの倒産件数は、ほぼ横ばいで推移し、2026年には12%減少すると予測されています。

フランスの状況はドイツに近く、倒産件数は2022年以降、着実に増加しています。しかし、最近のデータはわずかな鈍化を示しており、これは、2025年後半から始まるコロナ禍前のレベルに向けた段階的な調整の始まりと当社は解釈しています。全体として、2025年のフランスの倒産件数は、ほぼ横ばいで推移し、2026年には12%減少すると予測されています。

オランダとデンマークでは、倒産件数はすでにピークに達したと見られており、施策上の抑え込みにより低水準だったコロナ禍の状態からの補正が行われています。当社では、この状態が比較的安定して推移すると予想しています。2025年には、オランダで12%、デンマークで4%の減少を見込んでいますが、これは主に2024年に記録された高い水準と比較したベース効果を反映したものです。しかし、経済成長の低迷により、2026年にはわずかに悪化すると予想され、倒産件数はオランダでは8%、デンマークでは5%増加すると予測されています。

ポルトガルとポーランドでは、ポストコロナの調整もほぼ完了したと見られています。2025年については、ポルトガルで8%、ポーランドで2%の減少を見込んでいます。2026年も堅調な経済活動が続くと予想されており、ポーランドで2%、ポルトガルで1%とさらに緩やかな減少になると考えられます。

イタリアでは、主にコロナ禍の施策上の抑え込みによる低水準からの正常化を反映して、2025年には倒産件数が10%増加すると予想されています。この上昇傾向は2026年も続く見込みですが、ペースは鈍化し、4%の増加が予測されています。ノルウェーの倒産件数はパンデミック前の水準で安定しており、2025年残りの期間もほぼ変わらない状態が続くという見通しです。2026年には、経済成長の鈍化によって、倒産件数はわずかに増加すると予想されます。

最後に、いずれのグループにも当てはまらないのがスペイン、英国、スイスです。スペインでは、2015年以降、倒産件数が徐々に増加しています。この構造的な傾向は持続すると予想され、2025年には2%の増加、2026年には安定すると予測されています。英国では、Brexit(EU離脱)後の期間に倒産が急増しており、2025年から2026年にかけては、高い水準が安定して維持されると考えられます。スイスでは、破産法の改正によって、公的機関が債権回収を統括して行うようになったことが、倒産件数の増加の原因となりました。世界全体で見ると、2025年の倒産件数は21%増加し、2026年にはわずか1%と大幅に減少すると予想されています。

アジア太平洋 

アジア太平洋地域の観察対象の市場すべてにおいて、2025年には倒産件数の増加が予想されています。

シンガポールでは、今年上半期に倒産件数が急増し、コロナ禍(新型コロナウイルス感染拡大)以前の水準を上回りました。通年で見ると、すべての市場の中で最も高い44%の増加を見込んでおり、2026年も倒産件数は高い水準が続くと予想されます。韓国でも、長引く景気後退、コスト上昇、信用条件の厳格化、消費者の需要低迷を背景に、倒産件数が顕著に増加しています。2025年には10%の増加が予測されており、減少に転ずるのは、2026年までずれ込む見込みです。

日本では2025年の倒産件数は高い水準で停滞し、わずか2%増にとどまると見込まれています。2026年には、大幅な調整が実施され、16%の減少になると思われます。オーストラリアは、この地域で唯一、倒産件数のピークを過ぎたとみられる市場として際立っています。金利が緩和され、物価上昇圧力が安定するとともに、2025年後半にかけて、緩やかに低下すると予想されています。しかし、今年初めに倒産件数の水準が上昇したため、通念の数字は依然として5%増加すると考えられます。2026年には、より顕著な改善が見込まれ、28%の減少となると予想されています。

Summary

世界の倒産件数は2025年に5%増加した後、2026年には3%の減少になると予測されており、この数値は2025年4月時点の経済見通しから上方修正されています。

企業倒産件数急増の原因となった2024年の状況が改善されていない上、世界経済における新たなリスク要因(特に関税率の引き上げと不確実性の高まり)が生まれており、当社では倒産件数がさらに悪化すると予測しています。

2026年を見据えると、明るい兆しも見られます。インフレは低い水準で安定しているように見え、世界中の中央銀行は利下げを開始しました。こうした動向を受けて、近い将来、企業の財政状況は徐々に改善されると推測できます。

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