ウクライナの対外援助 - 2024年1月

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2024/02/01

ウクライナは過去2年間、多額の対外援助を受けてきました。この援助は今後数年間も重要になるでしょう。

サマリー

  • ロシアの大規模侵攻が始まって以来、ウクライナは人道的、経済的に多大な犠牲を払っています。2022年に経済はほ ぼ3分の1縮小し、政府予算は大幅にバランスを崩しました。
  • 2022年と2023年に、ウクライナは国家予算で約650億米ドルの融資を受けました。その多くは防衛費/安全保障費の 増加に充てられています。総額約1,280億ユーロの金融援助が米国やEUを含む国際パートナーによって約束されてい ます。
  • ウクライナ経済は今後数年間で緩やかに回復すると予想されています。しかし、対外援助の必要性は今後も継続する ことでしょう。IMFは、2027年までの政府資金需要を1,140億米ドルと想定しています。この点で、ここ数か月間、新 たな支援の約束が圧力にさらされていることは憂慮すべきことです。

ウクライナは、2022年2月24日のロシア侵攻の結果、人 道的、経済的に多大な犠牲を払っています。この戦争に より、侵攻前の人口4,200万人のうち約630万人のウクラ イナ人が避難を強いられました。ロシアによるウクライ ナ領土の併合、建物やインフラの破壊、徴兵や避難民の 結果としての労働力の減少により、ウクライナ経済は 2022年にほぼ3分の1縮小しました。戦争の今後の行方は 依然として不透明ですが、紛争は現在膠着状態にありま す。最終的な結末として、朝鮮戦争(1950~1953年)末 期の北朝鮮と韓国間の紛争に匹敵する「凍結した」紛争 になる可能性が非常に高いと思われます。後者は停戦で終わりましたが、正式な平和条約の締結には至りません でした。

この調査ノートは、ウクライナが西側諸国およびIMFや世 界銀行などの国際機関から受ける支援に焦点を当ててい ます。ここ数か月間、西側諸国のパートナーの間で疲労 感が高まっているようで、この支援は圧力にさらされて います。米国では、共和党が追加資金の送金に消極的で あるため、610億米ドルのウクライナ支援策が議会で暗礁 に乗り上げています。欧州では、EUはウクライナに対す る500億米ドルの支援策を承認できず、提案がハンガリー によって阻止されました。EU首脳は現在、ハンガリーの 加盟を維持するか、ハンガリーを回避するかの代替案を策定しているところです。キール研究所によると、2023 年8月から10月にかけて新たに約束された援助は2022年 の同時期と比べて大幅に減少しています。それでも、今 後数年間はウクライナに対する国際的な支援が不可欠で あることに変わりはないというのが当社の考えです。

2022年と2023年を振り返る

この戦争はウクライナ経済と政府財政に大きな打撃を与 えました。2022年のGDPは約30%縮小し、2023年の回復 は3.4%にとどまりました。グリブナの下落と一次産品価 格の上昇により、インフレ率も急速に上昇しました。政 府支出の総額は、2021年の680億米ドルから2023年には 1,000億米ドルに増加しました。 収入も増加しました が、支出の増加を補うほどではありませんでした。支出 と収入の差は財政赤字であり、2021年のGDPの3%から 2023年のGDPの16%まで増加しました(図1)。

図1 ロシアとの戦争により政府支出が増加

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 ロシアとの戦争により政府支出が増加

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年の政府支出の増加の大部分は防衛および安全保障 支出の増加によるもので、その額は110億米ドルから430 億米ドルに増加しました(これは戦前のGDPの6%から 22%の増加に相当します)。2023年には、防衛および安 全保障支出はさらに増加し、630億米ドルになりました。 収入面では、税収は2021年の530億米ドルから2022年に は32%減少し、360億米ドルとなりました。税収の減少に も関わらず、外国政府や国際金融機関(IFI)からの補助 金の増加により、政府総収入は増加しました。会計上、 補助金は政府収入として記録されます。

政府収入として計上される補助金は、2021年のほぼゼロ から2022年には130億米ドルに増加しました。2023年に は110億米ドルに達しています(2023年11月までのデー タ)。これらの補助金がなければ、財政赤字はさらに膨 らむことでしょう。ウクライナの財政赤字は、2021年の 70億米ドルから2022年には230億米ドルに増加しました(図2)。2022年の財政赤字(150億米ドル)の大部分 は、外国政府やIFIからの対外融資で賄われています。 2023年には外国政府からの融資は減少しましたが、IFI融 資は大幅に増加しました。

IFI融資の一部はIMFによって提供されており、ウクライ ナは2023年3月からIMFとのプログラムを締結していま す。IMFプログラムの包括的な目標は、不確実性が非常に 高い時期に経済と金融の安定を確保し、債務の持続可能 性を回復し、改革を促進することです。

図2 膨らむ赤字は主に外部支援によって賄われている
図2 膨らむ赤字は主に外部支援によって賄われている

IMFプログラムの規模は4年間で156億米ドルです。このう ち35億米ドルはすでにウクライナに支出されています。

外部支援に加えて、ウクライナは2022年に国内融資を強 化することにも成功しました。2022年2月以降、ウクラ イナは一般国民が購入できる国内戦時公債の発行により 60億米ドルを調達できるようになりました。しかし、図2 が示すように、この資金源は2023年にはそれほど成功し ませんでした。政府は引き続き戦時公債をなんとか売却 できたという事実にもかかわらず、未払いの戦時公債の 元本と利払いを行わなければならなかったことから、 2023年には全体として下落することになりました。

最も重要なドナー(資金提供者) 

キール研究所は、ウクライナに与えられた外部支援に関 するデータを収集し、軍事支援、人道支援、財政支援と いう3つの主要なタイプの支援に分類しています。財政支 援は、助成金、融資、保証、スワップラインで構成され ます。これらは、短期(1年以下)の二国間コミットメン ト、または複数年にわたるコミットメントとなります。 軍事支援には、ウクライナ軍に寄付された物品に加え て、あらゆる種類の武器や軍事装備品、および軍事目的 に関連付けられる財政支援が含まれます。人道支援とは、民間人をサポートする支援(主に食料、医薬品、そ の他の救援物資)を指します。軍事装備品や武器などの 現物支援は市場価格で見積もられ、支援の真の規模を過 小評価しないように価格の上限が使用されます。

2022年の大規模なロシア侵攻以来、米国、EU、その他の 西側諸国が約束した累計援助額は2,420億ユーロに達し、 そのうち128ユーロが財政支援、160億ユーロが人道支 援、98ユーロが軍事支援です。最大のドナー(資金提供 者)はEU機関と米国であり、欧州のいくつかの個別の国 がそれに続きます。ただし、援助の構成はさまざまで、 米国は主に軍事支援を提供するのに対し、EUは主に金融 支援を提供しています。

図3 EUと米国が最も多くの支援を提供している
図3 EUと米国が最も多くの支援を提供している

援助を各ドナー(資金提供者)の経済規模の割合として 表すと、リトアニア( GDP の 1.8% )、エストニア (1.8%)、ノルウェー(1.6%)、デンマーク(1.6%)、ラ トビア(1.5%)が最大のドナー(資金提供者)として浮上 します。これらの国に続くドナー(資金提供者)はスロ バキア、ポーランド、オランダ、フィンランドで、資金 供与はそれぞれGDPの1%以上を占めています。同様に、 米国はGDPの0.3%、英国は0.5%の割合で資金供与を行っ ています。

また、キール研究所では長期にわたる援助を追跡してい ます。2023年8月から10月にかけて、新たにコミットさ れた援助額は2022年の同時期と比べて約90%減少しまし た。現在、ウクライナは、米国、ドイツ、北欧、東欧諸 国といった中核的なドナー(資金提供者)への依存度を 高めています。さらに、ウクライナは、以前に約束され た複数年にわたる大規模なプログラムに依存することが できます。

2つのシナリオ

ウクライナの資金需要が今後どのように推移する可能性 があるのか、IMFの予測を見てみましょう。IMFは今後 数年間のベースラインシナリオと下振れシナリオを策定 しました。ベースラインシナリオでは、ロシアとウクラ イナ間の戦争が2024年末までに終結すると想定していま す。下振れシナリオでは、戦争がより長期化して激化 し、2025年末までに敵対関係が終結すると想定していま す。下振れシナリオでは、ベースラインシナリオと比較 して、資本ストックへの毀損が大きく、移民の帰還が遅 れ、バランスシートが弱体化します。これはまた、下振 れシナリオでは予想されるGDPの回復が遅くなることを 意味しています。ベースラインシナリオではGDPは2030 年代初頭に戦前の水準までに回復する予想ですが、ネガ ティブシナリオでは回復は2030年代末まで持ち越しとな る予想です。

表1は、一部の主要な経済指標に関する両方のシナリオを 示しています。

IMFは、そのベースラインシナリオで、財政赤字は短期的 には非常に高い水準(2024年には19%)を維持し、その 後、戦争の激しさが弱まるにつれて徐々に減少すると予 想しています。下振れシナリオでは、国防費の増加と経 済活動の低下により、財政赤字はさらに2年間15%を上 回ったままとなり、その後大幅に減少に転じると予想し ています。多額の赤字は政府債務にも影響を及ぼしま す。ベースラインシナリオでは、2025年にはGDPのほぼ 100%まで増加し、その後徐々に減少すると予想されてい ます。下振れシナリオでは、債務は2026年に138%でピー クに達すると予想されています。

表1 マクロ経済指標
表1 マクロ経済指標

IMFは、政府債務を持続可能にするためには債務再編が 必要だと考えています。当社の計算によると、債務再編 には数百億米ドルの未払い債務が含まれる可能性があり ます。

最も重要な債権者(G7諸国といくつかの小規模な西側諸 国を加えた「債権者グループ」は、状況が安定した ら、あるいは遅くともIMFのプログラム終了(2027年) までに、債務の持続可能性を回復するための債務処理を 行うことをウクライナに対してすでに約束しています。 さらに、IMFプログラム期間中も融資保証を提供し、融資 返済を停止してきました。

外部支援は引き続き不可欠

戦争が今後どのような経過をたどろうとも、ウクライナ に対する国際的な支援が引き続き不可欠であることは明 らかです。IMFのベースラインシナリオによれば、ウクラ イナ政府はプログラム期間(2023年から2027年)中に 1,140億米ドルの資金ギャップを抱えています(図4)。

図4 資金ギャップの大部分は二国間融資で埋める必要がある
図4 資金ギャップの大部分は二国間融資で埋める必要がある

2024年、ウクライナは370億米ドルの外部支援を必要と しています。2025年の支援額は210億米ドルと見込まれ ていますが、その後は大幅に減少します。資金ギャップ の大部分は二国間融資によってカバーする必要がありま す(図ではこれは公的資金の一部です(IMFを除く))。

下振れシナリオでは、資金ギャップは1,400億米ドルに拡 大する可能性があります。このシナリオでは、2026年まで外部支援の必要性は高い状態を維持します。下振れシ ナリオでは、IMFは追加融資が行われると想定しており、 これは国際債権団が示した保証と一致しています。繰り 返しになりますが、資金の大部分は国際的なドナー(資 金提供者)から調達する必要があります。IMFプログラム の期間中はウクライナの国際資本市場への復帰は現実的 とは考えられていませんが、IMFでは、2029年には資本 市場への復帰が可能であると想定しています。

戦時下の経済に関連する毎年の予算支出に加えて、再建 と復興のための長期的な費用もかかります。世界銀行 は、これらの費用を4,110億米ドル(戦前のウクライナの GDPの2.6倍)と見積もっています。この費用の見積も りは、戦争勃発の初年度に発生した損害のみを対象とし ています。最も緊急に必要とされているのは、エネル ギー、住宅、重要インフラ、社会インフラの復旧、最も 脆弱な人々への基本的サービス、爆発性災害の管理、民 間部門の開発です。

本ノートで論じてきたように、ウクライナの資金需要は 今後数年間は高い状態を維持することでしょう。国際的 な支援はウクライナ経済の根幹を成すものです。ウクラ イナが対外援助を打ち切られるシナリオでは、マクロ経 済バランスがすぐに制御不能に陥る可能性があります。 例えば、ウクライナが財政赤字を金融融資で補うことを 余儀なくされ、グリブナに圧力がかかり、インフレ率が 上昇する可能性があります。ひいてはウクライナの対外 債務不履行につながる可能性もあります。さらに、支援 の大幅削減はウクライナの軍事力にも悪影響を及ぼしま す。これゆえ、西側諸国のパートナーがウクライナへの 財政支援に消極的になっていることはこれまた憂慮すべ き事態です。2024年の米国選挙でトランプ氏が勝利すれ ば、米国のウクライナ支援が完全に打ち切られる可能性 があり、EUの負担はさらに大きくなることが予想されます。

Theo Smid, シニアエコノミスト
theo.smid@atradius.com
+31 20 553 2169

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