パンデミック後には政府支援は縮小するため、多くのマーケットで2022年と2023年に破綻が予想されています。
要約
- サプライチェーンの混乱、旺盛な消費者需要、ロシア・ウクライナ紛争などにより物価上昇圧力が高まっており、2022年の世界のGDP成長率は鈍化すると予想されます。
- 一部の市場では、2021年の倒産の動向は、正常な状態に戻りつつあるようです。たとえば、スペイン、イタリア、チェコでは、倒産件数が2020年に減少したものの、2021年には増加に転じています。
- ただし、大部分の市場では、2022年から2023年にかけて調整が行われる見込みです。今後は、政府の財政支援が段階的に打ち切られるため、ほとんどの市場で経営破綻が増加すると予想できます。
2022年には、世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)による危機から脱却し、ほとんどの国や地域で規制が解除されると思われます。しかし、経済成長の観点から見ると、経済再開による利益の大部分はすでに使い尽くされています。さらに、サプライチェーンのボトルネック、消費者需要の増加、ウクライナ戦争は、物価上昇圧力を高め、成長の足枷となりそうです。しかし、世界経済が景気後退期に入るのは、先のことになるのではないかと思われます。これは、ロシアとウクライナの経済が世界経済に深刻な影響を与えるほどの規模ではない(世界のGDPの2%未満)ためです。世界経済の成長に対しては、一次産品価格の高騰という形で影響があるでしょう。2022年の世界のインフレ率は6.1%と予測されています。これは、消費者の購買力に悪影響を及ぼし、世界のGDP成長率は2021年の5.9%から2022年には3.4%と緩やかに下降する見込みです。
新興国グループの成長率は、2021年の6.9%に対し、2022年は3.7%となりそうです。今年はワクチン接種が進むことで、生産高の伸びや消費意欲の向上につながる可能性があります。新興国の多くは、2022年、金融・財政政策の支援縮小に転じると思われます。ブラジル、ロシア、メキシコなどの新興国の中央銀行は、インフレ率の上昇を受け、利上げに踏み切っています。政府による財政・金融支援策が縮小されることで、経済成長率に緩やかな影響が見られるでしょう。2022年、アジアの新興国が引き続き、最も急速な成長を維持しています(成長率は5.2%)。中国では、不動産バブルの崩壊と新型コロナウイルス対策の厳しい規制により、2022年の成長率は4.8%と緩やかなものになっています。東ヨーロッパでは、欧米諸国の厳しい制裁措置により、ロシア経済が今年から深刻な景気後退(10.9%減)に入ると見られています。トルコ経済も、物価上昇によるインフレ、サプライチェーンの混乱、地政学的な不確実性などの要因で、成長が鈍化しています。
先進国の成長率は3.1%に低下すると予想されています。米国のGDP成長率についても、サプライチェーンの混乱や財政指標の見直しにより、2022年度は緩やかになると思われます。また、ユーロ圏のGDP成長率は、サプライチェーンの混乱とウクライナ紛争により、2022年、大きく減速すると予想されます。ユーロ圏は、エネルギーを介してロシアと密接な関係にあるため、ロシア・ウクライナの紛争がもたらす経済的影響を比較的大きく被るようです。当社の基本ラインでは、紛争は2023年までに沈静化し、ユーロ圏への石油・ガスの供給に大きな支障が生じないものと想定されています。逆に最悪のシナリオも考えられますが、その場合は、ユーロ圏のGDP成長率はさらに悪化するでしょう。
2021年と比較すると、2022年は政府による財政支援が縮小されるものの、ほとんどの先進国市場では、財政状況は引き続き拡大傾向にあるようです。一方、中央銀行は金融引き締めに転じています。今年3月、米国連邦準備制度理事会(FRB)は25BP(ベーシスポイント)の利上げに踏み切り、イングランド銀行ではすでに数回の利上げを実施しています。ECBでは、資産購入プログラムを縮小しており、利上げは2022年の第4四半期に行われると思われます。しかし、全体としては、企業の財政状況は引き続き良好のようです。
2021年に見られた複雑な兆候:パンデミックによる倒産件数減少の深刻化と反転現象
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間は、世界的に倒産件数が大幅に減少しました(2020年~2021年の世界の倒産件数は累計で29%減少)。このような状況になったのは、2種類の政策が原因であることは以前にも論じました。第一に、ほとんどの国が、企業を倒産から守るために破産法を変更したことが挙げられます。次に、世界各国の政府は、感染拡大による経済への影響に対抗し、小規模事業者を支援するための対策を講じてきました。
図1は、2020年と2021年の倒産件数の増加率をまとめたものです。ほとんどの国が縦軸の左側に位置しています。この図から深刻な景気後退にもかかわらず、2020年は倒産件数が減少したことがわかります。これは、政府の手厚い金融政策が存続する体力のある企業だけでなく、ゾンビ企業、すなわち平時であっても債務不履行に陥った企業までも救った結果によるものでしょう。2020年の倒産件数は、シンガポール、オーストラリア、フランス、オーストリア、ベルギー、イタリアなど、企業を経営破綻から守るため、破産法が一時的に緩和された国々では、著しく減少しています。
図1の縦軸で見ると、2021年については、倒産件数の動態には、国によってばらつきがあることがわかります。南西象限に分布する国グループは、財政支援が継続され、おそらくは倒産の抑制策が効果を発揮したことから、倒産の急減(insolvency plunge)が見られます。最も減少率が高かったのは、ポルトガル、オランダ、韓国、ニュージーランド、米国です。
ポルトガルは、2021年4月頃、倒産件数が急激に減少しているのが目立ちます。この時期、政府の財政支援は打ち切りになりましたが、2020年11月に施行されたポルトガルの破産法改正により、経営難に陥った企業の再生が容易になったことが減少の要因ではないかと考えられます。とはいえ、この措置も段階をもって2021年12月に廃止されたので、その効果は一時的なものと思われます。
ニュージーランドは、新型コロナウイルスに関連する支援策として制定された債務支払いの一時停止の適用を2021年10月まで延長しました。これにより、財政難に陥っている企業も、半年の猶予を持って、債務返済の選択肢を探すことができました。
オランダでも、2021年は倒産件数が大きく減少しました。継続的かつ対象を定めた財政支援は年間通して実施されていましたが、破産法の構造的な変更も倒産件数の減少に一役買ったと思われます。2021年1月1日、オランダの破産法は組織再編の選択肢が新たに追加されました。.
同様に、米国における破産申請件数も著しく減少しています。米国の場合は、年初まで利用可能な給与保護プログラム(PPP)や年末まで受けられる新型コロナウイルス対応の経済的損害災害融資(EIDL)などの企業に対する流動性支援措置が要因でしょう。さらに、資本市場評価が良好であるほか、低金利であるため、債務の借換の際、有利な条件で資金を調達できるようになっています。
一方、北西象眼に位置する国々は、2021年にはパンデミックによる倒産件数減少の反転が見られます(つまり、2020年は減少した後、2021年は倒産件数が増加)。これは、通常レベルに戻すための調整、さらにゾンビ企業の債務不履行が原因で、すでにオーバーシュートが始まっていると、当社は解釈しています。2021年、倒産件数が最も高かったのは、スペイン、チェコ、イタリアでした。スペインでは、予想に反して景気回復は実現せず、新破産改革法案の効果に疑問が呈されています。イタリアでは、2021年に倒産件数が増加しましたが、2020年の第3四半期に支払い猶予を設ける「破産モラトリアム法」が廃止されたことが理由でしょう。チェコ共和国では、2021年には財政支援の大部分が段階的に廃止されており、これが倒産件数の増加につながっていると思われます。
図2は、2019年を基準として、2021年の倒産件数の指数を示したものです。これは、図1の2021年の倒産水準を2019年と比較して、倒産増加率の複合影響を代替的に示したものと考えることができます。この指数を見ると、ポルトガル、韓国、オランダの倒産件数は、2019年の半分以下を記録している一方で、スペイン、トルコ、チェコはすでにオーバーシュートしているなど、大きなばらつきがあることがわかります。 ここでは、2019年を基準とする倒産件数の偏差に着目します。これは、次のセクションで述べるように、倒産件数を予測する上で重要な要因なのです。
2022年と2023年:通常状態への回復とゾンビ企業の追加債務不履行
ほとんどの政府が2021年末から2022年前半まで支援策を講じていますが、2022年後半は、大半の政府の支援が段階的に打ち切られているでしょう。したがって、全体で見ると、2022年には倒産件数を正常レベル戻すための調整が始まると考えられます。2019年の倒産件数をベンチマーク(基準)として、2019年に対するGDPの傾向からの乖離の変動の影響を考慮して調整することで、予測期間のいずれかの時点の倒産件数の正常な水準を定量化したものです。
ロシア・ウクライナ紛争は、GDP成長率にマイナス影響をもたらし、当社の倒産予測を大きく左右するものです。この紛争はロシアにとって大きなことであるほか、程度の差こそあれ他の市場でもその影響を感じられるでしょう。ただし、政府による財政支援策の段階的廃止と比較すると、ロシア・ウクライナ紛争が倒産件数の予測に及ぼす影響は、ロシア本国を除くと、比較的小さいと考えられます。
調査対象の市場の多くは、2022年後半から2023年初頭にかけて、倒産件数が通常の水準をオーバーシュートすると予測されます。これは、ゾンビ企業による債務不履行が増える結果になりそうです。つまり、パンデミック時の倒産件数の水準がパンデミック発生前より大幅に減少したために起こる現象です。こうした企業は、政府の財政支援が打ち切られた後、債務不履行に陥ると当社では考えています。2023年末には、倒産件数は通常の水準までフラット化すると見られています。
このように、当社の倒産件数予測においては、政府の財政支援の打ち切りのタイミングが非常に重要になってきます。当社は2つの仮説を立てています。まず、財政支援が廃止されてからの2四半期は、徐々に正常な状態へ回復していくと思われます。さらに、ゾンビ企業は財政支援が廃止された後、次の4四半期で債務不履行に陥ると想定されています。つまり、財政支援策の廃止が早ければ、2022年に倒産件数の増加が集中し、遅ければ2023年に集中することになります。
図3に、すべての市場の2022年と2023年の倒産増加率を、図2と同様、2019年比で2021年の倒産レベルが高かった国順に並べて示しています。
一般に、パンデミック前に比べて2021年の倒産件数が低い国の方が、倒産増加率が高いことがわかります。これらの増加率の高さは、通常の倒産件数の水準調整とゾンビ企業の債務不履行の発生を反映したものです。一般的に、2022年に高い増加率を示した国は2023年の増加率は低くなり、逆に2021年に低かった国は2023年に高くなります。これは、各国の財政支援の打ち切り時期次第といえます。
2022年、最も高い増加率を示したポルトガル、オランダ、シンガポール、ベルギー、オーストリア、米国は、2021年の倒産件数の水準が低く、2021年後半から2022年前半に財政支援が廃止された国でもあります。
2022年は、ロシアでも倒産件数が大幅に増加すると予想されていますが、これは部分的には正常化に向けた調整、またはウクライナ戦争に関連した制裁措置による景気後退が原因だと考えられます。
一方、スペイン、チェコ共和国、フィンランド、スイス、ルーマニアの倒産件数の増加率は低いことがわかります。これは正常化に向けた調整の大半が2021年に実施されたことが原因です。
スウェーデンの場合、2021年の水準からの乖離が大きくなく、2022年の増加率は低いと見られます。
トルコとブラジルは、2022年の増加率が最も低くなると予測されますが、すでに2020年に政府の財政支援が廃止されているため、パンデミック関連の調整によるものではありません。その代わり、長期的な動向と比較すると、これらの国々のGDP成長率は悪化すると予測されています。.
異常な値として目立っていたのは、ニュージーランドと香港です。2022年は両国の倒産件数が減少を示しています。それは、財政支援が2022年末まで延長されることが原因でしょう。このため、すべての調整が2023年に集中し、市場全体の中で最高の増加率を示しています。
我々は、韓国、ポーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリアについても、2023年の倒産件数の増加率が高いことにも留意しておきたいと思います。同様に、2021年の倒産件数の水準が比較的低く、政府の財政支援の廃止が2022年半ばと、比較的遅いことを反映しています。その結果、2023年の初頭は倒産件数は高い水準となりますが、その後徐々に正常化されます。ですが、同年初頭の倒産件数の高さが通年での倒産件数の水準の高さをけん引することになるでしょう。
2023年を過ぎると、倒産件数は再び減少に転じるか、ほぼ一定に保たれる見込みです。これは、倒産水準がほぼ正常に戻り、財政支援がなければ生き残れないゾンビ企業はすでに淘汰されているからです。今後数年間、企業は、政府の財政支援が受けられない環境に適応していかなければなりません。パンデミック時に多額の負債を抱えた企業にとっては、これは課題になるかもしれません。
Theo Smid、シニアエコノミスト
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Iulian Ciobica、エコノミスト
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