2023年には一部の主要国で倒産率が急激に増加し、2024年には相対的に安定した年が見込まれます。
サマリー
- パンデミック収束と市場からのゾンビ企業の退場に続き、2023年は続くノーマリゼーション(正常化)傾向 を受けて、倒産件数がグローバル規模で増加するものと当社では見ています。この原因は、高いインフレ 率、金融引締政策、パンデミック期よりも縮小される政府支援策にあります。2024年は、相対的に安定の一 年になるものと見ています。
- 2023年は、韓国(154%)、イタリア(90%)、香港(83%)、ニュージーランド(82%)、オランダ(79%)、 米国(74%)で経営破綻件数が大きく増加すると見込んでいます。
- 2024年は、ニュージーランド(62%)、韓国(35%)、シンガポール(30%)の倒産件数が比較的高率で推 移すると見込んでいます。
パンデミック期の2年間を経て、2022年のグロー バルな倒産件数は9%増加しました。この増加の原 因には、COVID対応の経済支援策の打切り、および 倒産関連法の臨時措置の撤廃が関係しています。一 部の市場では倒産件数はすっかり平時に戻り、パン デミック以前のレベルを上回る市場も見られます。 しかし、大多数の国の倒産件数はパンデミック以前 のレベルに回帰する途上にあると見ています。 2023年は「平時回帰」の傾向が継続し、倒産件数 はグローバルレベルで49%増を見込んでいます。 2023年は欧州で微増、北米で相対的な増加という具合に、すべての地域で増加する傾向にあります。 今年、各地域の多くの国で倒産件数が増えると考え られます。2024年は、良い状況と悪い状況がさら に入り混じるでしょう。グローバルレベルでの倒産 件数は対2023年比で12%増加すると予測していま す。2024年はほとんどの市場で倒産件数の正常化 が進む市場と進まない市場に分かれるでしょう。
2023年および2024年のGDP成長率は鈍化
2023年のグローバル経済の成長率は1.7%にとどま ると予測されています。今年のグローバルな金融引締政策とロシアのウクライナ侵攻の影響は引き続き 世界経済の足を引っ張り、特に米国および欧州の停 滞の一因となります。インフレは主要国市場では緩 和しつつあるものの、全体としては中央銀行の目標 値を上回っています。そのため、欧州および米国の 中央銀行は引き続き政策金利を高い水準で維持し、 今後は金利をさらに引き上げる可能性もあります。 高いインフレ率、金融引締政策、手元資金の縮小 は、需要を抑制します。2024年はインフレ率の低 下および消費者の購買意欲の改善でグローバル経済 は上向くでしょう。このため、2024年のGDP成長 率は前年度比で少し高い2.5%と見込んでいます。
新興国市場の成長率は、2023年は3.2%、2024年 は4.2%と予測しています。ロシアのウクライナ侵攻 および金融引締政策は、EME(欧州、中東)地域全 体でGDP成長の足かせとなっています。アジアの新 興国が引き続き、最も急速な成長(4.4%)を維持し ています。中国のGDP成長率は、COVID規制が大き く緩和されたため、2023年は4.5%に大きく改善さ れました。以前よりも「積極性」と「成長促進」を 重視した政策は、2023年の中国の個人消費を支え るものと見られます。その一方で、不動産業界の不 振と消費者信頼の低下は需要低迷の一因となるで しょう。東ヨーロッパでは、ロシア対ウクライナ戦 争に引き続き大きく左右されます。西欧各国はロシ アに対して大規模な制裁措置を断行しているため、 2023年も景気後退が続くでしょう。2月6日にトル コで発生した震災はトルコにとってはもちろんのこ と、広域的にも暗雲が立ち込めています。もともと トルコ経済は高率のインフレとトルコリラ安に苦し んでいました。さらに震災による経済的影響が短期 的に同国のGDP成長率を圧迫するでしょう。
先進諸国の成長率は2023年はわずか0.7%にとど まりますが、2024年もそれを若干上回る1.2%と予測 されます。米国経済をみると、2022年最終第四四 半期のGDP成長率は予測を上回りました。ただし、 個人消費低迷が続いているため、2023年Q2には後 退局面に入ると考えられます。そのため、2023年 および2024年のGDP成長率は1%弱と見られます。ユーロ圏内でみると、経済成長率の鈍化と下振れリ スクを全体像として考えています。ユーロ圏のGDP のQ4最新予測によれば、成長は踊り場に差しかか ると見られます。2023年の今後の成長予測に対し ても、エネルギー価格の高騰とウクライナ戦争が成 長の重荷になると判断しています。さらには、現在 の金融引締政策の効果がまだまだ実感できていませ ん。2023年(0.6%)は相対的に低成長で、2024年 はそれをわずか1%上回る程度の上昇にとどまると判 断しています。
政府によるパンデミック対策としての財政支援の 多くが廃止され、ほとんどの先進国市場では財政規 模は全体的に引き続き拡大傾向にあります。複数の 国がエネルギー価格高騰の悪影響への対応として政 府支援策を導入し、経済成長を下支えしています。 しかし、新たに現れたリスクも懸念されます。なか でも金融引締めの結果が主要なリスクとなっていま す。米国連邦準備制度や欧州中央銀行(ECB)など の先進国中央銀行は、昨年政府金利を大きく引き上 げました。この結果、最近になって、米国の地方銀 行が数行経営破綻に追い込まれ、銀行業界に動揺が 走りました。欧州の銀行業界は米国よりも安定して いると目されていましたが、長年にわたって懸案を 抱えていたクレディ・スイスがスイス政府によって 買収を余儀なくされています。このような出来事に よって、各国中央銀行はさらなる金利引上げには慎 重になることが考えられます。現在の市場の緊張が 緩和されない場合は、各国中央銀行は金融引締政策 を中断せざるを得なくなるでしょう。ここ数か月、 信用基準は米国でもユーロ圏でもになってい ます。
先進国市場の金融環境の引締めが進んだため、新 興国市場にも影響が及びました。米国準備制度が金 利引上げを開始して以来、一部の新興国市場では通 貨価値が大きく下落しました。特に、民間債務水準 が高い国(トルコなど)は、金融環境の引締めに対 して脆弱です。
倒産件数はパンデミック以前に戻るレベルです
対パンデミック支援策および法的臨時改定措置に より、2年にわたって倒産は明らかに減少していま したが、2022年の倒産件数はグローバルで9%増加 しました。
図1は、2022年Q4と2019年Q4を比較した倒産 データです。100を超える値の国は、倒産レベルが 2019年レベル(パンデミック以前)を上回ったこと を示しています。100未満の国は、倒産レベルが 2019年を下回った国を示しています。
指標値が最低でも95%になれば、市場は完全に 「正常化」したと当社では見ています。正常化した と見なせるのは、トルコ、英国、スイス、ロシア、 スペイン、デンマーク、スウェーデン、カナダ、 フィンランド、オーストリア、チェコ、アイルラン ドです。ただし、大多数の市場ではまだ正常化への 途上にあります。つまり、倒産レベルは2019年レベ ルをまだ下回っているという事になります。
T2022年Q4に高い倒産レベルを示した国を一覧し ても、大きな驚きはないはずです。たとえば、トルココでは高いインフレ率、トルコリラの下落、高水準 の企業債務に悩まされています。英国では、倒産件 数の増加は政府支援対策の打ち切り、およびEU離 脱以降の景気回復の動きが鈍いことに起因すると考 えられます。スイスでは政府支援策の打切りとゾン ビ企業の関連倒産も原因となっています。スペイン では景気後退と破産申請猶予の撤廃が2022年Q3の 倒産件数急増の引き金になりました。企業が債務を 整理しやすくする経営破綻新法が高い倒産率の抑制 に働くことが考えられます。デンマーク、スウェー デン、チェコではパンデミック期も倒産件数が大き く減少しませんでしたが、これは政府支援策が不十 分であったか、または効果がなかったと考えられ ます。
ニュージーランド、韓国、米国、オランダなどで は、パンデミック以前に比べて倒産件数が減少しま した。これらの国は、手厚いコロナ対策支援が企業 の流動性を押し上げました。こうした手元資金の緩 衝材となるものが政府支援策の打切り直後の倒産件 数の増加の抑制になったと当社では考えています。 結果として、こうした国の倒産レベルはパンデミッ ク以前に比べて低い水準で推移しました。
2023年の通年予測:平時への回帰が続く
当社の2023年予測は、パンデミック対策の財政 支援策が打ち切られ、各国の倒産レベルは「正常 化」レベルに戻るという考え方をベースにしていま す。当社では、政府支援策の打ち切りから倒産件数 レベルが平時に戻るまで、四半期ベースで最長8期 かかると想定しています。「正常化」に加えて、ゾ ンビ企業のさらなるデフォルトを予測期間に割り振 りました。つまり、パンデミック期の倒産件数の水 準がパンデミック発生前より大幅に減少したために 起こる現象です。こうした企業は、政府の財政支援 が打ち切られた後、債務不履行に陥ると当社では考 えています。
それでは、当社の2023年および2024年の倒産件 数予測の対前年比の変動幅(対2022年比の2023年 の件数)を見てみましょう。グローバルレベルは、2023年は対前年比で49%増加すると予測してい ます。リージョンレベルでは、米国がけん引役と なって北米はほかよりも大きく増加するものと見て います(71%)。欧州は、27%と増加するが、伸び は緩やかだと見ています。これは倒産件数の正常化 がほかよりも進んでいるためです。アジア太平洋は 56%増と予測しています。
C図2では、2023年および2024年の倒産件数を国 レベルで予測しています。各国市場の順序は図1と 同じです。2023年にもっとも高い倒産増加率を示 したのが、韓国、イタリア、香港、ニュージーラン ド、オランダ、米国です。各国に共通する特徴は、 パンデミック以前に比べて2022年の倒産レベルが 非常に低かった点です。これらの国では、平時への 回帰は主に2023年になります。ゾンビ企業の経営 破綻が加わることが、2023年の倒産件数の押し上 げ要因となります。
2023年に倒産増加率が低率かまたはマイナスで ある市場もあります。2023年に下がると当社で予 測している国はスペインとスイスです。両国の倒産 レベルは2022年通年で平時を超えるレベルまで増 加しました。2023年は、平時レベルまで下がるも のと当社では予測しています。倒産件数が2022年 にすでに正常化していたオーストリア、フィンラン ド、チェコ、スウェーデンは緩やかに増加するもの と当社では予測しています。
図3では、別の観点から倒産件数の推移を示して います。倒産マトリクスの縦軸は、2023年に予測 される倒産件数の変化を対2022年比で示していま す。増加率が2%を上回る場合は倒産増加率は「悪 化」、-2%~+2%の範囲内の場合は「安定」、-2%を 下回る場合は「改善」と見なします。横軸は、 2023年の倒産レベルを対2019年比で示していま す。これで、パンデミック以前と対比して現在の倒 産レベルがより分かりやすく把握できます。2023 年に対2019年比で120%を上回ると予測される場合 は「高」、95%~120%の範囲内の場合は「標準」、 95%を下回る場合は「低」のレベルとしています。
大多数の国では2023年は悪化傾向にありました が、全体としてはパンデミック以前に比べて低率に とどまりました。スペインとスイスだけが前述のと おり、倒産の推移が改善しています。英国、イタリア、ベルギーは調査対象市場のなかでもっとも不安 材料のある国となりました。これは2023年に悪化 傾向にあって、2023年の倒産レベルが対2019年比 で120%を上回りつつあるからです。英国の倒産件 数は、2022年にパンデミック以前の平時レベルに 戻っており、ゾンビ企業の経営破綻と相まって特に 興味深いケースとなっています。ただし、低成長環 境が2023年の倒産件数を押し上げるものと見られ ます。ベルギーでは、倒産件数の正常化は2022年 に始まり、2023年も継続しています。イタリアで は2023年に平時回帰が大きく進み、悪化傾向にあ ります。
2024年通年予測:差が開く傾向が顕著に
2024年は、良い状況と悪い状況がさらに入り混 じるでしょう。グローバルレベルでは、対2023年 比で12%増加すると予測しています。正常化に向か う国で、倒産が増加中の国(ニュージーランド、韓 国、シンガポール)が多数あります。ただし、多く の市場では倒産件数は再び減少に転じるか、ほぼ横 ばいの見込みです。これは、倒産水準がほぼ正常に 戻り、財政支援がなければ生き残れないゾンビ企業 はすでに淘汰されているからです。
2024年に倒産増加率のマイナスが予想される国 にはスイス、カナダ、ロシアなどが挙げられます。 ロシアではウクライナとの戦争とロシアに対する制 裁措置の影響が経済に波及した結果、2023年に倒 産件数が大幅に超えるものとなります。2024年は 経済環境が安定に向かい、倒産件数は部分的に正常 化するでしょう。カナダでは2023年にゾンビ企業 の経営破綻を主因として、倒産件数が大幅に超えま す。カナダの倒産件数は2024年に部分的ながら正 常化するでしょう。スイスでみると、倒産が2019年 比で正常なレベルへと引き続き移行するため、2024年 は倒産レベルが減少する年になるでしょう。
来年は企業にとって引き続き厳しい年となりそう です。パンデミック期に受けていた手厚い政府支援 策なしに生き残りを図らなければなりません。さら に、直面するのは金融政策が引締め方向に舵を切っ た環境です。パンデミック期に債務を抱え込んだ企 業にとっては課題となるでしょう。
Theo Smid, シニアエコノミスト
theo.smid@atradius.com
+31 20 553 2169
All content on this page is subject to our Disclaimer, available here.
関連ドキュメント
355.0KB PDF