政府支援の打ち切りにより、倒産件数が増加

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2022/10/06

パンデミックに関連する政府の支援策がほぼどこでも終了しているため、一部の主要市場では倒産が急増すると予想しています。

要約

  • 一部の先進国で、2022年と2023年の倒産件数が急増しています。
  • この原因として、高止まりするインフレ率とエネルギー価格、金融引締め政策、政府支援の打ち切りが挙げられます。
  • 2022年は英国(59%)、フランス(58%)、オーストリア(78%)、ベルギー、カナダ、オーストラリア(それぞれ49%)で、経営破綻件数が急増すると見込まれています。
  • 2023年は米国(81%)、オランダ(77%)、シンガポール(76%)、イタリア(51%)で大幅な倒産増加が見込まれます。
  • 2023年は、多くの市場で、いわゆる「ゾンビ企業」の債務不履行の増加で倒産件数の通常レベルを超えると予測されています。
  • 一部の先進国で、2022年と2023年の倒産件数が急増しています。
  • この原因として、高止まりするインフレ率とエネルギー価格、金融引締め政策、政府支援の打ち切りが挙げられます。
  • 2022年は英国(59%)、フランス(58%)、オーストリア(78%)、ベルギー、カナダ、オーストラリア(それぞれ49%)で、経営破綻件数が急増すると見込まれています。
  • 2023年は米国(81%)、オランダ(77%)、シンガポール(76%)、イタリア(51%)で大幅な倒産増加が見込まれます。
  • 2023年は、多くの市場で、いわゆる「ゾンビ企業」の債務不履行の増加で倒産件数の通常レベルを超えると予測されています。

グローバル経済の苦難は続く

高いインフレ率と高止まりするエネルギー価格を主因として、景気観測は過去6か月にわたり弱含みが続いています。現時点で2022年のグローバルな経済成長率は2.9%と予測していますが、2023年は1.7%に落ち込む模様です。この結果、2022年4月の当社の倒産予測レポートと比較して、2023年までに合計2.0ポイント下がることになります。

ロシアが天然ガスの輸出量を削減したため、エネルギー価格の上げ幅は予測を超えるものとなりました。サプライチェーンのプレッシャーについては、緩和に向かう徴候がいくつか見られます。それを阻害する情勢が今後も経済活動に悪影響を与えるものの、生産活動の制約は緩やかに軽減されるでしょう。高いインフレ率のため、各国中央銀行は緊縮財政に舵を切らざるを得なくなっています。2022年は世界のインフレ率を平均で7.8%、2023年は4.8%と予測されます。景気後退への警戒感が増しつつあるものの、根強いインフレ傾向のため各国中央銀行は金融引締政策をすぐに緩和することに対しては引き続き慎重でしょう。

新興国における金融環境のタイト化

新興国市場の成長率は、2022年は3.5%、2023年は3.4%になる見込みです。COVID-19の大流行および長引くロックダウンは、アジアの新興国市場にとって押下げ要因となっています。加えて、各国中央銀行が今後のインフレ対策として金利を引き上げると、新興市場経済諸国の財政事情はさらに引締めに向かうことになります。アジアの新興国市場の経済成長率は2022年で世界最速(3.8%)でしたが、今後はやや減速に向かいます。

中国の経済活動は、2021年の8.1%から、2022年は3.2%、2023年は4.9%に減速すると予測されています。政府はロックダウンに起因するサプライサイドの混乱を収めるためにこれまでゼロコロナ政策を微調整してきましたが、コロナの制約下にある環境は引き続き経済活動に影響をおよぼします。中国では存在感のある不動産業は下降傾向にあり、デベロッパーの債務不履行が経済予測の最大リスクとなっています。

東ヨーロッパでは、短期的にはロシア対ウクライナ戦争に引き続き大きく左右されます。西ヨーロッパ各国がロシアに対して大規模な制裁措置を科しているため、同国経済は2022年、2023年とも後退傾向にあります。トルコではインフレが急速に進み、経済成長率は鈍化することとなり、消費者の購買意欲に悪影響がおよんでいます。これに世界情勢が拍車をかけています。

先進国市場の経済成長率は、2021年の5.2%から、2022年は2.3%、2023年は0.3%に減速すると予測されています

先進国市場の経済成長率は、2021年の5.2%から、2022年は2.3%、2023年は0.3%に減速すると予測されています。米国経済は年初から四半期ベースで2期連続でGDPが落ち込み、低調なスタートとなりました。インフレの進行で消費者の実質所得は目減りし、内需も縮小しました。当社では、米国の経済成長率について、2022年は1.7%、2023年は0.0%と予測しています。ユーロ圏のGDP成長率は、サービス業の営業再開や観光業の活況で第1四半期および第2四半期で回復しました。本年下期および2023年初で、ユーロ圏の経済は高騰するエネルギー価格の影響で後退傾向に入ると予測されています。ロシアウクライナ紛争で今後受ける大きなインパクトの原因としては、物価高騰や、ロシアおよびウクライナの天然ガスに代表される重要輸入品目の供給の混乱が挙げられます。2022年のユーロ圏の経済成長率は3.0%と予測していますが、2023年は0.0%に落ち込む模様です。この結果、2022年4月の当社の倒産予測レポートと比較して、2023年は2.7ポイント下がることになります。

各国中央銀行はさらに財政引締め政策を強化

対2021年比で、2022年は政府によるパンデミック対策としての財政支援が縮小されるものの、ほとんどの先進国市場では、財政規模は全体的に引き続き拡大傾向にあります。高いインフレ率を受けて、各国中央銀行はさらに財政引締め政策を強めています。

  • 米国連邦準備制度は2022年初から政策金利を累積で300ベーシスポイント引き上げています。そのうち、6月、7月、9月はそれぞれ75ベーシスポイントと記録的な引き上げ幅となりました。
  • イングランド銀行も同様に、今年は数回にわたって政策金利を引き上げています。
  • 欧州中央銀行(ECB)は7月に政策金利を50ベーシスポイント引き上げました。また9月にも75ベーシスポイント引き上げました。この結果、預金金利は0.75%と、過去10年間で最高レベルに達しました。

主要先進国市場の中央銀行は次期四半期には政策金利をさらに引き上げると予測されています。財政引締め傾向は、先進国市場および新興市場経済諸国に共通しています。ほとんどの新興市場経済諸国では、従来の基準に照らして制限を強化する傾向にあって、これが企業の負債比率の高い市場(トルコなど)の足かせになる恐れがあります。

倒産件数レベルは2020年に減少したものの、部分的にパンデミック前のレベルに回帰傾向

新型コロナウイルスのパンデミック時は、世界的に倒産件数が大幅に減少しました(2020年~2021年の世界の倒産件数は累計で29%減少)。このような状況になったのは、2つの政策が原因であることは以前にも論じました。まず、ほとんどの国が、企業を倒産から守るために、破産法を(その多くが時限措置)修正したことが挙げられます。次に、世界各国政府は、感染拡大による影響への経済対策として、小規模事業者を支援するための対策を講じてきました。

2020年と2021年は、倒産件数が減少

2020年は、厳しい景気後退局面にもかかわらず、ほぼすべての市場で倒産件数が減少しました。これは、政府の手厚い政府支援が事業継続能力のある企業だけでなく、ゾンビ企業、つまり平時であっても債務不履行状態にあったはずの企業まで救済した結果によるものでした。2021年は、部分的ではあるものの、倒産件数のレベルはパンデミック前に戻り、その傾向は2022年上期も継続しています。これは、政府支援プログラムの打ち切りと時を同じくして起こっています。政府支援プログラムはニュージーランドと香港を除き、2022年第3四半期初には世界全体で打ち切られました。

2019年と比較した2022年初来の倒産件数レベル

図1は、2022年初来の倒産件数の指標(2019年同期比)を示しています。この図から、現在の倒産件数レベルの傾向がパンデミック前の環境と比較して把握できます。指標からは、倒産件数が国によって大きな隔たりがあることがわかります。すでに2019年のレベルに戻った国もあれば、依然として低いレベルにとどまっている国もあります。

なぜ国ごとに倒産レベルが異なるのか?

倒産件数がパンデミック前に完全に戻った国やパンデミック前を上回った国は、トルコ、スペイン、スイス、英国、チェコ、ルーマニア、デンマークでした。

スペインは、2021年には平時のレベルに戻りました。景気回復が期待どおりに進まなかった原因として、企業の再編や倒産に関わる法整備が不十分であったことも挙げられます。スペイン議会は2022年6月に企業倒産に関するEU指令に基づき、新たな倒産法を成立させましたが、この効果は未知数です。

英国では、倒産件数レベルはパンデミック前を上回りました。これは、政府支援対策の打ち切り、およびEU離脱以降の景気回復の動きが鈍いことに起因すると考えられます。

一方、オランダ、米国、韓国、日本では、まだ平時のレベルには戻っていません。直近の各四半期では、倒産件数レベルは依然として低いままです。こうした国では政府支援プログラムが相対的に手厚いため、企業の流動性ポジションが向上しています。米国の場合は、2021年初まで利用可能な給与保護プログラム(PPP)や2021年末まで受けられるCOVID-19対応の経済的損害災害融資(EIDL)など、企業の流動性支援プログラムがあります。

オランダは企業支援パッケージ(NOW、TVL、Tozoなど)をいくつか実施し、企業の流動性を強化しました。さらに、2021年1月1日付で、新たな倒産法を施行しました。しかし、データによれば、この新法は倒産件数を下げる物的貢献になっていません。日本政府も、支援策を惜しみませんでした。そのエビデンスとして、非金融企業の現預金残高が大幅に増加しており、これが倒産件数の伸びを抑える結果となりました。韓国の倒産件数レベルも相対的には依然として低いレベルで、これは低金利融資の活用などの対コロナ支援策に起因します。

2022年および2023年の通年予測:平時への回帰が続く

当社では、政府支援策が打ち切られれば、ほとんどの国で倒産件数レベルが平時に戻ると確信をもって予測しています。当社は、2019年の倒産件数をベンチマークとし、これを対2019年比でGDPからの偏差の動きを考慮、調整して、予測期間のいずれかの時点の倒産件数の通常レベルを定量化しました。

この「ノーマリゼーション」が起こる速度は、当社のこれまでの倒産予測レポートよりも緩やかなものになると想定されます。当社では、政府支援策の打ち切りから倒産件数レベルが通常に戻るまで、四半期ベースで最長8期かかると予測しています。当社のこれまでのレポートでは、四半期ベースでおおよそ2期と想定されていました。

「ノーマリゼーション」に加えて、ゾンビ企業のさらなるデフォルトを予測期間に割り振りました。パンデミック時の倒産件数レベルがパンデミック前より大幅に減少したためにゾンビ企業が発生することがあります。ゾンビ企業は、政府の財政支援が打ち切られると、債務不履行に陥ると当社では考えています。

ゾンビ企業のさらなるデフォルト

それでは、当社の2022年および2023年の倒産件数予測の対前年比の変動幅(対2021年比の2022年の件数)を見てみましょう。大多数の国では、政府支援策は2022年上期で打ち切られました。その結果、平時の倒産件数レベルに回帰し始めるのは2022年下期になると見ています。

2022年の対前年比経済成長率は一般に、平時への回帰が始まって、なおかつゾンビ企業の債務不履行が発生した国で高くなります。2021年に倒産件数レベルが低かった国では平時への回帰の到来が速まり、2022年予測に対する上昇圧力が強くなります。2022年の経済成長率が高い国は一般に、2023年の経済成長率は低くなります。その逆もまたしかりです。

ウクライナでの戦争と倒産:ロシアに最大の影響

政府支援打ち切りがおよぼす影響とともに、倒産件数増加の原動力となるのがGDPの変動です。当社はこれを勘案して、高いインフレ率、サプライサイドの混乱、ロシアウクライナ紛争など、景気予測に間接的に影響するさまざまな要因を加味しました。

倒産件数の統計値を入手できないウクライナは別として、ロシアは2022年および2023年に景気後退局面に突入することによって、今回の戦争の最大のインパクトを感じることになるでしょう。他の市場では、この紛争が間接的にせよ、当然のように物価高騰と高いインフレ率は消費者の購買意欲を低下させ、GDP成長率を鈍化させていると受け取られています。エネルギー輸入のロシア依存度が相対的に高いユーロ圏では、ロシアウクライナ戦争がGDPに与えるインパクトは重大です。しかし、中南米などヨーロッパ以外の多くの国では、ロシアウクライナ戦争がGDPと倒産件数に与えるインパクトは比較的小さくとどまっています。

2022: 財政支援が段階的に廃止された市場における高い倒産率

図2に、すべての市場の2022年と2023年の対前年比倒産増加率の分析結果を図1と同じ国順で示しています。

 

2022年および2023年倒産増加率予測

 

2022年でもっとも高い倒産増加率を見せているのは、オーストリア、英国、フランス、オーストラリア、カナダ、ベルギーでしたが、これらの国では倒産件数レベルが部分的か、または完全に平時に戻りました。これらの国の財政支援は2022年上期には打ち切られ、平時への回帰がすでに始まっており、2022年下期もその傾向が続くでしょう。

こうした領域に達した国がある一方で、ニュージーランドと香港では2022年の倒産件数が大幅に減少しました。この原因は、財政支援が2022年末まで延長される見込みになったことにあります。このほかに、倒産件数に小幅の減少が見られた国(スウェーデン)や、緩やかな増加がみられた国(シンガポール、韓国、日本、米国、チェコ、スペイン)の相当数からなる集団がありました。

スウェーデンでは例外的な動きとしてパンデミック時も倒産件数は大きく減少しませんでした。このため、2022年は倒産増加率がプラスの数字になりませんでした。シンガポールでは、2020年には倒産件数が減少し、2021年に高いレベルに戻りました。2022年第3四半期の倒産件数は驚くべきことに、2022年通年増加率の足を引っ張る結果となっています。スイスおよびチェコでは、2021年の平時に戻りましたが、2022年の増加は限定的です。

米国、オランダ、日本、韓国では、政府支援策が相対的に手厚いものであったため、企業の流動性が向上し、支援策は打ち切り後も緩やかにする役割を果たしています。

2023年の倒産:ゾンビ企業のデフォルトの増加により、多くの市場で通常のレベルを超える

2023年の増加率が最大だったのは韓国、ニュージーランド、米国、香港、シンガポール、オランダでした。いずれも、2022年の倒産増加率がマイナスか微増の国です。これらの国では、平時への回帰は主に2023年になります。

ニュージーランドと香港に関しては、財政支援策は2022年末までに打ち切られる模様です。この結果、2023年にはすべて平時に戻り、倒産件数の増加率は上昇に転じるでしょう。米国、オランダ、韓国、シンガポールに関してはすでに政府支援が打ち切られています。議論の余地はあるものの、その手厚い支援で、2022年に多くの企業が倒産から救済されたことは前段で解説したとおりです。これらの国については、倒産件数レベルが平時に戻るのは主に2023年になると予測しています。調査対象の市場の多くは、2023年に倒産件数が平時のレベルをオーバーシュートすると予測されます。これは、ゾンビ企業による債務不履行が増加した結果です。

レバレッジの高いビジネスにさらなる問題が生じる

2023年を過ぎると、倒産件数は再び減少に転じるか、ほぼ横ばいの見込みです。これは、倒産水準がほぼ正常に戻り、財政支援がなければ生き残れないゾンビ企業はすでに淘汰されているからです。今後数年間、企業は、政府の財政支援が受けられない環境に適応していかなければなりません。パンデミック時に多額の負債を抱えた企業にとっては、これは課題になるかもしれません。

Theo Smid, シニアエコノミスト
theo.smid@atradius.com
+31 20 553 2169

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