持続不可能な債務への対応

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2024/04/30

債権者の多様化により、債務再編はますます複雑化しています。債権者の多様化により、債務再編はますます複雑化しています。

要約

  • 低所得国および中所得国は依然として債務問題に直面しています。過去3年間に、そのうちのいくつかは債務不履行 に陥っています。G20共通枠組みは、これらの国々の債務問題を支援するために創設されました。しかし、このイニ シアティブにおける債務再編は遅々として進みません。
  • 債権者の多様化により、債務再編はますます複雑化しています。債権者構成は時間の経過とともに変化しており、最 も大きな変化は対外債務に占める中国と債券保有者の割合の増加です。
  • 中国は問題のある債務者に対するアプローチがパリクラブ諸国と異なっており、それが再編交渉を複雑にしていま す。また、債券保有者を同じ考え方に導き、公的債権者の提案を承認させることも困難です。
  • 債権者間の複雑な関係により、債務交渉はより長期化し、より困難になっています。ザンビア、ガーナ、スリランカ などの国における再編問題がこれを浮き彫りにしています。これを改善するためのさまざまなイニシアティブにもか かわらず、解決策はまだ見えていません。

一連の不利な情勢により、脆弱な国々の債務問題は増大し ています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックとロ シアのウクライナ侵攻は、世界的なサプライチェーンの混 乱、インフレ率の上昇、金利の上昇を招きました。このよ うな外的ショックが政策の失敗やその他の国内問題に重な り、多くの国にとって最悪の事態を引き起こしました。過 去3年間に開発途上国における国家債務不履行の件数は合 計18件となり、過去20年間の合計を上回っています。世界 銀行の国際開発協会(IDA)からの融資資格を持つ20カ国 が過剰債務危機に陥るリスクが高いため、来年はさらに多 くの国がこれに追随する可能性があります。

このような問題となる状況はすべての債務国に当てはま るわけではありません。多くの国々では厳しい環境に対処する態勢が整っているため、以前のような一般的な債 務危機は発生していません。しかし、多くの低所得国お よび一部の中所得国は脆弱な立場にあります。これまで の低金利、高い投資ニーズ、国内収入の不足に拍車がか かり、多くの貧困国の債務は憂慮すべきレベルにまで上 昇しています。世界銀行によれば、IDA対象国の対外債務 総額は2012年から2022年の間に109%増加し、過去最高の 1.1兆ドルに達しています。この増加率は、中所得国で見 られた58%の増加率のほぼ2倍の速さです。その結果、低 所得国の公共及び公的債務(PPG)の返済コストは2023~ 2024年に最大40%上昇すると予想され、政府収入のかなり の割合を消費することになります。連邦準備制度理事会 は今年後半に金融緩和を開始すると予想されており、そ れがある程度の救済策となる可能性があります。とはいえ、パンデミック以前のような低金利環境は戻ってきま せん。さらに、その債務の3分の1以上が変動金利で融資 されているため、今後数年間で債務危機に陥る国の数は さらに増加する可能性があります。

図1 債務問題を抱える国が急増
 
Figure 1 Strong increase of countries with debt problems
 
国が対外債務危機に陥っている、あるいは危機に近づいて いる場合、解決策を見つけるのは以前よりも難しくなって います。債務再編に関する交渉にはさらに時間がかかり、 時には交渉開始すらできないこともあります。これに重要 な役割を果たすのは、新たな債権者の出現です。

新たな貸し手が重要な役割を果たす

一見すると、過去10年間の長期公的債務とPPG債務の債権 者構成はあまり変わっていません。2022年、IDA対象国は 50%を多国間機関から、29%を二国間公的債権者から、21% を民間貸付(金融)機関から借り入れています。2012年に は、これらの債権者グループが占める割合は、多国間機 関が56%、二国間公的債権者が33%、民間貸付(金融)機 関が10%でした。民間債権者の占める割合が倍増したこと を除けば、変化は限られています。しかし、データをさ らに詳しく調べてみると、際立って目立つ2つの動きがあ ります。

図2 一見すると公的債務の債権者構成に大きな変化はない

 

 

 

 

 

 

 

Figure 2 No big changes of public debt creditor composition at  first sight

 

 

 

 

 

 

 

まず、二国間債権国グループにおける中国の占める割合 が急増したということです。2006年、中国の公的債権者 がPPG債務に寄与した割合はわずか2%でしたが、2020年ま でに18%までに増加しました。中国の割合が増加した分 は、パリクラブ諸国による融資を犠牲にして行われた。 パリクラブ諸国による融資は、同時期に公的融資先に付 与された総融資の28%から10%に減少しました。新型コロ ナウイルス感染症のパンデミックの間、中国から低・中 所得国への新規債務コミットメントは減少しましたが、 これは以下で説明するように、これらの国々への新規コ ミットメント総額の減少と一致しています。とはいえ、 開発途上国が現在、パリクラブ加盟22カ国グループより も中国から多くの資金を借り入れているという事実に変 わりはありません。

図3 DSSI諸国への融資に関して中国はパリクラブ諸国を追い抜い ている

 

 

 

 

 

 

Figure 3 China has overtaken the Paris Club countries when it  comes to lending to DSSI countries

 

 

 

 

 

 

 

第二に、IDA対象国による債券発行が増加し、長期の公的 債務およびPPG債務において民間債権者の占める割合が倍 増したということです。ユーロ債が占める割合は、2021年 に13.9%でピークに達した後、2012年の3.8%から2022年に は13.5%に増加しました。パンデミック以前、IDA対象国は 好ましい世界的金融環境の恩恵を受けていました。低金 利のため、多くの国が初めて債券を発行したり、複数回 発行したりしました(ガーナ、ザンビア)。国内金利と 比較すると、ユーロ債の金利は低いものでした。国内市 場が未発達であったため、国内金利は高く、結果として 支払利息が高額となりました。ガーナなどの国々は、予 算の利子負担を軽減するために、高価な国内政府債を国 際債に置き換えました。このような低金利は魅力的なも のしたが、国際債券への移行により、これらの国々は市 場心理の変化に対してより脆弱となり、借り換えリスク と為替リスクが増大しました。この市場心理の変化は、 パンデミックが発生し、その後ウクライナ戦争が勃発し たときに生じました。ほとんどの開発途上国は国際資本 市場へのアクセスを失い、借入コストの急激な上昇に直 面しました。2018年まで債券発行が急増していたサハラ 以南アフリカでは、2020年に各国が市場へのアクセスを 失いました。アフリカの国(コートジボワール)が再び ユーロ債を発行したのは2024年1月になってからでした。

また、低所得国および中所得国への長期債務の総額が 2021年と2022年に大幅に減少したことにも注目する必要 があります。実際、公的融資先に対する新規コミットメ ントは2011年以来最低水準に達しました。主な要因は、 民間債権者からのコミットメントの減少であり、中でも 債券保有者からの減少が最も大きいものでした。世界的 な金利上昇、一部の借り手国の信用格付け引き下げ、全 体的なリスク回避志向の高まりにより、2022年の公的お よび民間セクターの借り手による債券発行は大幅に減少 しました。

ここ数年の不透明な世界経済環境の中で、二国間債権者 や民間債権者が融資活動に慎重になる一方で、多国間機 関債権者が最後の貸し手として名乗りを上げました。世 界銀行およびその他の多国間開発銀行は、2022年に過去 最高の1,150億ドルの新規融資を行い、その年の開発途上 国への新規融資の主要な供給源となりました。これは、 多国間機関が脆弱国の債務問題の解決や、少なくともそ の問題の軽減に中心的な役割を果たしていた、かつての 時代を呼び起こすようです。しかし、多国間機関にはも はやかつてのような決定力はありません。なぜなら、再 建に関わる債務の大部分が新たな債権者の手に渡ってい るからです。

DSSI:一時的な救済

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際、G20は公 的債権者に対する債務返済の停止を通じて、低所得国に 一時的な債務救済を提供しました。このイニシアティブ、 つまり債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)は、2020年 4月から2021年末まで実施されました。これにより、参加 国には保健医療や最も脆弱な世帯への支援への支出を強 化する余裕が生まれました。実際のところは、参加国は これらの解放されたリソース(資源)を新型コロナウイ ルス感染症のパンデミックの影響を和らげるために使用 することが求められていました。また、各国はこれらの 国々を監視しているIMFや世界銀行と緊密に協力する義務 を負っていました。

DSSIは、二国間公的債権者に対する利息および元本の支払 いの停止から構成されています。民間債権者にも同等の 条件で参加するよう要請されましたが、参加したのは1社 のみでした。しかし、DSSIの借り手の大半は、民間債権 者に返済猶予を要請することにも躊躇していました。多 くの国々が、ソブリン(国債)格付けや将来の市場アク セスへの潜在的な影響を恐れていました。

IDA加盟国および国連が定義する後発開発途上国(LDC) のうち、IMFおよび世界銀行に対する滞納がないすべての 国々がDSSIの対象となりました。対象となる73カ国のうち 48カ国が参加し、二国間公的債権者に支援を要請しまし た。それらのほとんどがアフリカ諸国です。IMFによれば、2020年5月から2021年12月まで、推定総額89億ドルの債 務返済が停止されました。この額は当初予測された129億ド ルを下回ります。

参加資格のあるすべての国がDSSIへの参加を熱望したわけ ではありません。ナイジェリアやホンジュラスなど一部 の国では、二国間公的債務の水準が低いため、DSSIによる 救済は限定的でした。ガーナやベナンなどのように、DSSI への申請が信用力の低下を示す可能性があるため、ソブ リン(国債)格付けへの悪影響を懸念して参加を見送っ た国もあります。しかし、DSSIへの参加による格下げは起 こりませんでした。一部の国は信用格付け機関からネガ ティブウォッチに指定されましたが、全体としてはDSSI参 加が市場に深刻な悪影響をもたらすことはありませんで した。それどころか、ソブリン(国債)スプレッドが縮 小した国さえあります。

図4 DSSIによる救済にもかかわらず、一部の国では債務問題が生 じた

 

 

 

 

 

 

Figure 4 Despite DSSI relief, debt issues arose for some  countries

 

 

 

 

 

 

 

DSSIは確かに各国を支援しましたが、債務返済の一時停止 を規定したため、一時的な流動性解決策に過ぎませんで した。2020年に提供された債務猶予は、1年間の猶予期間 と4年間の返済期間で再スケジュールされました。2021年 に提供された債務猶予も、猶予期間は1年、返済期間は 5年に再スケジュールされました。すべての国はすでに DSSI救済金を返済しています。これは、すでに債務残高が 過大となっている政府にとって、今後数年間の債務返済に 余分な負担を強いることになります。特に、これらの債務 支払い停止が比較的高額であった場合はなおさらです。

前述のように、DSSIは流動性の問題を解決しただけで、各 国で顕在化している支払能力の問題には対処していませ ん。DSSI参加国のうち、公的債務総額がGDPの100%を超 え、対外債務の割合が大きい国がいくつか存在します。 多くの国にとって、公的債務水準の上昇とそれに伴う債 務元利返済額の高さにより、債務返済が困難になる可能 性があります。特に世界的および国内的な高金利を考慮 すればなおさらです。借入コストの上昇と国際資本市場 へのアクセスの欠如により、多くの債務国で借り換えリ スクと債務不履行リスクが高まっています。

共通枠組み:忍耐が必要

より構造的な債務問題や長期化する流動性問題に対処する ため、IMFとG20はパリクラブと共同で、2020年11月に共通 枠組み(CF)を導入しました。CFはDSSIを凌駕するもので すが、十分ではないという意見もあります。債務国は、CF の下で、G20諸国のすべての債権者の債務処理を要請する ことができます。これらの債権国には、従来のパリクラブ 加盟国だけでなく、中国やインドのような新興の債権国も 含まれます。これに加えて、CFは公平な負担分担を確保す るために民間債権者に対しても同様の扱いを要求していま す。CF債務処理にはIMFプログラムが伴います。

これまでにCFに基づく債務救済を要請したのは4カ国のみ です。チャド、エチオピア、ガーナ、ザンビア。進捗は 非常に遅く、債務再編交渉に成功した唯一の国がチャド です。これら4カ国はそれぞれ独自の課題を抱えています が、複雑な債務構造は共通しています。これらの国々で は債権者基盤の変化がはっきりと見て取れます。銀行に 対する商業債務(チャド、ザンビア)とユーロ債(ガー ナ、ザンビア)の重要性が高まっています。中国のよう な新興の債権国の役割も増大しています(ザンビア、エ チオピア)。複雑な債務構造に加え、国内問題も進展を 遅らせる要因になっています(エチオピア、ザンビ ア)。エチオピアは当初2021年初頭に債務救済を要請し ましたが、内戦のためこの手続きは遅延しました。エチ オピアは2023年9月に中国との二国間債務返済猶予に合意 した後、2023年11月に公式二国間公的債権者と2025年ま での債務支払い停止に合意しました。パリクラブによる この債務軽減は、エチオピアが2024年3月までにIMF融資 を確保することを条件としていますが、これについては まだ合意に至っていません。エチオピアは2023年末の国 際債の利払いを滞納し、正式に債務不履行状態に陥りま した。

図5 共通枠組みにおける債務構成の国別変化

 

 

 

 

 

 

 

Figure 5 Varying debt composition countries under Common Framework

 

 

 

 

 

 

 

CFの下で合意に達した最初の国であるチャドは、多くの 銀行やファンドが保有する商業担保債務を再編する必要 がありました。大手民間債権者は2024年に期限を迎える 債務返済の一部を再配分することに合意しており、これ が不十分な場合は公的債権者が負担することになりま す。ガーナの場合、国内債務再編は負担が大きすぎると みなされたため、CFの要件に追加されました。ガーナは 2022年12月にユーロ債の債務不履行に陥り、国内債務の 再編を完了した後、2023年4月にCFに申請しました。2024年1月に公的債権者との基本合意に達しました。しかし、それ でも国は債券保有者との交渉を開始する必要があります。

ザンビアは、CFの下での再編プロセスがいかに難しいも のかを示す良い例です。ザンビアは2020年11月にユーロ 債の債務不履行に陥った後、2021年1月にCFの下で債務救 済を要請しました。3年間の交渉を経て、ようやく合意に 達したかに見えました。少なくとも、ザンビア政府が多 数の民間ユーロ債保有者と締結した債務再編協定は、同 等取扱い原則に違反しているとして、公的債権者委員会 によって拒否されるまではそうでした。最終的に、ザン ビアとその債券保有者の間で改訂された契約の合意に至 り、中国と他の公的債権者によって承認されました。ザン ビアにとって、トンネルの先にようやく光が見えてきた ようです。しかし、それでも中国の銀行など他の商業債 権者と条件に合意する必要があります。

CFに申請する場合、債務国と債権国の両方に忍耐が必要で す。これまでのところ、債務協定に合意したのはチャドだ けであり、ザンビアの交渉には3年を要していることから、 G20の共通枠組みは適切に機能していないようです。プロ セスの長期化と複雑さのため、他の重債務国はCFへの参加 にますます消極的になる可能性があります。

マラウイ、ジブチ、ラオスの最近の事例のように、CFに 参加できる国の中には、代わりに二国間交渉を追求して いる国もあります。マラウイはCF外の商業債権者および 公的債権者と交渉中です。ジブチは2022年12月に主要債 権国である中国への債務支払いを停止し、現在はアンゴ ラに倣って債権者と交渉中です。2020年、アンゴラは債 務問題に直面し、中国に対する対外債務の一部を再編しました。債権者が1人である国(ほとんどの場合は中国) では、すべての債権者が同じ条件で再編するよりも二国 間再編の方が効率的である可能性があるようです。より 効率的だからといって、必ずしも借入国にとって有利で あるとは限りません。例えば、ラオスは、今年末の債務 不履行を回避するために支払猶予について、おそらく中 国と合意に達するものと思われます。しかし、これまで と同様に、中国の支援は、鉱物や水力発電所などの戦略 的資産や資源へのアクセス、およびより広範な貿易投資 の機会と引き換えに行われることになるでしょう。

高額な国内債務が複雑な要因となっている
国内債務の負担が大きすぎるため、再編から除外でき ない場合もあります。多くの低所得国および中所得国 では、過去数年間に国内債務が増加しました。多くの 国は、債権者の裾野を広げるために国内資本市場を発 展させる努力をしてきましたが、特にパンデミックの 際には、対外的な資金調達手段が枯渇し、国内の資金 源に過度に依存した国もありました。二国間公的融資 の減少と資本市場へのアクセスの喪失に直面して、各 国政府は国内債券の発行を増やしています。平均的に 国内債務は金利が高く、満期が短いため、借入コスト とロールオーバーリスクが高まります。国内債務の増 加は債務不履行の引き金となる可能性があります。例 えば、ガーナが2022年12月に債務再編を要請した時点 では、公的債務はGDPのほぼ90%で、国内債務の割合は GDPの48%でした。ガーナは2022年7月にIMFプログラム を要請しましたが、IMFの承認前に国内債務の再編が必 要でした。これは、2023年2月までにほとんどの金融機 関で完了しました。債務再編は経済の安定を回復する ためには重要ですが、一般的には経済に混乱をもたら します。特に国内債務の再編の際には、銀行や年金基 金が保有資産で損失を被るため、金融の安定性にさら に大きな混乱が生じる可能性があります。

スリランカ:債務交渉継続中

財政管理の失敗や政情不安により困難に陥った国々で は、対外債務に関する困難な交渉も行われています。こ こでも、債権者による債務の構成が重要な役割を果たし ます。悪名高い事例としては、中所得国であるにもかか わらず、2022年4月に債務不履行に陥ったスリランカが挙 げられます。新型コロナウイルス感染症のパンデミック やテロ攻撃などの外的ショックが公的債務の急増につな がりました。しかし、このような偶発的な出来事より も、長期にわたる財政の誤った管理の方がはるかに大き な役割を果たしています。2009年に内戦が終結して以 来、政府は一連の大規模なインフラプロジェクトの資金 を中国からの借款で賄うことを選択し、同時に他国から の補助金やプロジェクトを拒否してきました。6さらに、 スリランカ政府は港湾、エネルギー、運輸への投資のた めの二国間融資に加え、比較的高いクーポンレートで発 行された国際ソブリン債も大量に購入しました。スリラ ンカが債務不履行に陥った際、同国の対外債務の約3分の 1は債券保有者の手に渡り、中国、日本、アジア開発銀 行、世界銀行はそれぞれ9%から13%を保有していました。

2023年に入り、トンネルの先に光が見え始めました。ス リランカは二国間債権者から債務再編の予備承認を得 て、IMFの28億ドルの拡大信用供与措置(EFF)を利用す るための理事会レベルの合意を確保しました。さらに、 経済は2年連続の縮小の後、今年は再び好調に推移してい ます。しかしながら、スリランカはまだ危機を脱したわ けではありません。金融危機による金融・財政政策の引 き締めなどの悪影響が、個人消費や企業投資を抑制して います。さらに、実際の債務再編プロセスは年末まで続 く可能性が高いため、債務状況に関する不確実性は続く と予想されます。中国、インド、イラン、クウェート、 サウジアラビア、パキスタンなど幅広い債権国が関与し ているため、交渉は難航しています。その結果、スリラ ンカは対外債務返済を停止したまま、今年いっぱいは債 務不履行状態が続くと予想されています。一方、10月に 予定されている大統領選挙と議会選挙は、政府がIMFの支 援を受けた不人気な緊縮政策を実施しなければならない 時期に政情不安が続くことを意味しています。その結 果、社会不安により現政権が切望されているIMF改革の実施を延期または遅延せざるを得なくなるまで、ほとんど 何も起こりません。

図6 ラオスは主に中国から借り入れているが、スリランカは債券
保有者への借り入れが比較的多い

Figure 6 Laos mainly borrows from China, while Sri Lanka  owes relatively more to bondholders

パキスタン:繰り返される借り換え問題

対外債務問題に取り組んでいるもう1つの中所得国はパキ スタンです。この国は債務不履行に陥っておらず、近い 将来もおそらく陥らないものと予想されます。しかし、 パキスタンの輸出収入は将来の債務を返済するには低す ぎるため、債務再編に関する交渉が必要になるものと予 想されます。ここでも政府はインフラ整備事業に多額の 投資を行い、中国が融資提供に大きな役割を果たし、公 的債務水準を押し上げました。現在、IMFとパキスタン当 局は、9カ月間のスタンドバイアレンジメント(SBA)の 最終審査についてスタッフレベルで合意に達しており、 状況はやや安定しています。IMFの支援による重要なポジ ティブな結果は、他の債権国がパキスタンに財政支援を 行うよう促したことです。中国、サウジアラビア、UAE、 そして世界銀行とアジア開発銀行はパキスタンに融資す る用意があり、当面は債務不履行を回避しています。

したがって、パキスタンの見通しはおそらくスリランカ よりも良好だと思われますが、ここでもさらなる債務交 渉と不安定な政治情勢の組み合わせが重要なリスク要因 となっています。SBAが前向きに締結されたのは、政府が 昨年、電気料金とガス料金の大幅値上げや高インフレ対 策のための金融引き締め政策など、IMF支援の政策改革を 実施したことが主な理由です。対外支払能力を維持する ために、EFFの形でIMFの支援を得るためのさらなる措置が 必要です。しかし、これがうまくいくかどうかは不明で す。2024年2月、物議を醸した選挙の後、連立政権が発足 しました。政府は政治的支援として軍に頼ることができ ますが、議会での議席数は過半数すれすれであり、また 国民の幅広い層から不人気です。特に緊縮財政が国民の 不満をさらに募らせることになれば、政治的安定は得ら れない状態が続くものと予想されます。連立政権が存続 できない場合、あるいは政府がIMFを引き留めることがで きない場合、新たな金融危機が再び起こる可能性が出て きます。それ以外にも、他の債権者からの支援も不透明です。対外債務の一部を再スケジュールする交渉は短期 間で開始される必要があり、中国がその取り組みの重要 な部分を担う可能性が高いです。

中国対パリクラブ

以上のことから、新興の債権者の出現により、債務再編 交渉が以前よりも難しくなっていることが分かります。 これは主に、中国の役割の増大と、融資や債務救済に対 する中国の異なるアプローチによるものです。さまざまな 情報源を駆使した包括的な研究によれば、このアプロー チは3つの側面に関係しているとのことです。71つ目は、 中国は他の国よりも債務不履行に対する債権者保護を重 視していることです。例えば、中国では借り手に対し、 債務を清算するための特別口座の開設を義務付けていま すが、これは中国の貸し手の債権の優先順位を高め、債 務救済の負担を他の債権者に転嫁するものです。さら に、債務国が問題に直面した際、中国は債務削減を実施 する意欲をほとんど示しません。2番目の要件は、借り手 が融資契約および債務再編の条件を守秘しなければなら ないということです。そして最後に、中国は債務問題に 対して多国間アプローチに参加するよりも二国間解決を 望んでいます。

この最後の点が、交渉が困難になっている根本的な理由 であるように思われます。中国は、二国間債権国間の調 整を促進するパリクラブに参加していませんが、この組 織はかつてIMFが中心的な役割を果たしていた共通体制の 一部です。中国はIMF内で第3位の出資国ですが、パリク ラブに加盟していないため、IMFが困窮する借り手に対し て迅速に対応することが困難になっています。債務の透 明性と再編における負担分担をめぐって中国とIMFおよび パリクラブ諸国の双方との間に意見の相違があるため、 中国から借り入れた国々がIMFとプログラムを交渉するの に必要な時間が長くなっています。実際には、長期にわ たる交渉に伴う不確実性が借り手にとって追加コストに つながることが分かっています。合意が得られない限 り、資本市場へのアクセスは不可能であり、他の債権者 への扉もほとんど閉ざされたままとなります。

民間債権者は容易な交渉相手ではない

債券保有者が債務再編に参加する場合、状況はさらに複雑 になり、発言権を持つのは1人の保有者だけではなく、複 数の保有者が条件に同意する必要があります。これにはす でにかなりの時間がかかる可能性がありますが、G20共通 枠組みの下で見られる債務再編において重要な欠点は、債 務国政府と交渉する債券保有者の提案はいずれも、公的債 権者の承認を条件としている点です。ザンビアの債務再編 の際、債券保有者との最初の合意が民間債権者に有利にな るという理由から最大の債権国である中国に承認されな かったのも、この現象の現れです。現在、公的債権者がま ずどの程度の債務再編が必要かを判断し、民間債権者も同 様の条件でそれに従う必要があります。

現在、債務不履行に陥った債務のうち債券保有者の割合 が非常に大きいため、債務国はすべての債権者と早期か つ同時に交渉を行う必要があります。これにより、迅速 かつ効果的な債務解決が促進される可能性があります。

解決策はまだ見えない

近年債務不履行を経験した、あるいはそれに近い状況に陥 った国々は、さまざまな債権者間の複雑な調整に直面して います。多くの場合、従来の債権者に加えて、中国や債券 保有者が交渉のテーブルにつき、それぞれの利益や独自の アプローチを示しています。すべての債権国が参加する G20共通枠組みには欠点があり、このイニシアティブに参 加している国々にとって資金調達は依然として困難です。

このため、交渉はより長期化し、困難を極めています。最 近になってIMFは次のようなことを述べています。「今日 の債権者を取り巻く環境はより複雑化しており、調整は困 難を極めています。」対外債務の構成は国によって異な り、債務国は債務問題の解決をどの債権者に求めるかにつ いてそれぞれ異なる選択をするため、ケースバイケースの アプローチが現在では一般的な慣行となっています。しか し、いくつかの国で現在起こっている再編問題は、このア プローチが理想からは程遠いことを示しています。

状況を改善するためにさまざまなイニシアティブが開始 されました。その1つがグローバル・ソブリン債務ラウン ドテーブル(GSDR)で、多国間融資国、パリクラブおよ びパリクラブ以外の二国間債権国、民間融資国、借入国 の間で共通の立場を見出すことを目的としており、IMF、 世界銀行、G20議長国が共同議長を務めています。GSDR は、債務再編に関わる主要な利害関係者の間で、例えば 情報共有や再編プロセスにおける多国間開発銀行の役割 などについて、より深い共通理解を構築することで、こ の問題に根本的に取り組むことを望んでいます。このイ ニシアティブは問題の核心に迫るものですが、現在存在 する大きな相違を考慮すると、債務再編のためのうまく 機能する調整メカニズムが確立されるまでには、まだ長 い道のりがあります。IMFもまた、主にIMF自身の手続き の迅速化と緩和に主眼を置いた改革案を打ち出していま す。この改革により、債権者との交渉がまだ完了していな い場合でも、IMFは融資を提供できるようになります。借 入国はこの恩恵を受けることになると思われますが、これ が交渉のより早い終結につながるかどうかは不透明です。 こうしたイニシアティブにもかかわらず、債務再編をめぐ る問題の構造的な解決策はまだ見えていません。

Afke Zeilstra、シニアエコノミスト
afke.zeilstra@atradius.com
+31 20 553 2873

Bert Burger、主席エコノミスト
bert.burger@atradius.com
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