クリーンエネルギーへ の移行：化学製品

 

 

 

 

化学業界は、クリーンエネルギーへの移行という要件が化学業 界そのものだけでなく、化学業界と密接な関係にある幅広い業 界にも影響を及ぼしていることを示す優れたバロメーターにな ります。化学薬品メーカーは、エネルギー集約型のプロセスや 原料の一部として、大量の燃料を消費します。再生可能エネル ギーへの移行やクリーンで持続可能な原料の採用（使い捨てプ ラスチックの代替品を見つけるなど）は、業界に直接影響を及 ぼし、業界の運営方法に大きな変化をもたらすでしょう。

さらに、化学薬品は、下流工程の産業やセクターにサービスを提供しています。 たとえば、電気自動車（先端プラスチックやシリコンチップなど）、農業（農薬 や肥料）、医薬品の材料提供はその一例です。これらのセクターに影響を与える 変更や指令は、化学業界にとっても切り離せない重要事項です。

今後3年間は、過去1年間のエネルギー価格の高騰や景気低迷から脱却する一方 で、持続可能性への投資が必要になるため、業界全体にとって非常に重要です。 60か国以上が使い捨てプラスチックの禁止と課税を実施しており、多くの国が 持続可能性のロードマップの一部に化学物質を含めています。たとえば、EUの 持続可能な化学物質戦略は欧州グリーンディール政策の一環です。米国のインフ レ抑制法には、環境負荷の少ない代替手段を構築するための補助金や奨励金が含 まれています。しかし、すべての市場によって状況は異なるため、持続可能性に 関する法律の遵守要件もさまざまです。

再生可能エネルギーソリューションは、今後3年間で、収益、顧客需要、雇用を増 加させ、化学薬品セクターに利益をもたらすことができるのでしょうか？

非常にそう思う	ややそう思う	まあまあそう思う	あまりそう思わない	可能性は低い
トルコ アイルランド イタリア	オーストラリア 中国 フランス 日本 ニュージーランド 英国 米国	オーストリア ベルギー ブラジル 香港 ハンガリー マレーシア フィリピン シンガポール スペイン スウェーデン スイス タイ	チェコ オランダ ポーランド 台湾	韓国

アトラディウスのアンダーライターは、この地域のセクター の主な問題は何だと考えていますか？

世界各地のアトラディウスのアンダーライターにインタ ビューし、今後3年間の各市場におけるクリーンエネルギーへ の移行が化学業界にどのような影響を与えるかを尋ねました。 たとえば、EUの企業持続可能性報告指令（CSRD）や、米国の CHIPS、科学法、インフレ抑制法など、各国政府は現在、気 候変動対策計画を強化しています。多くの企業にとって、こ うした法令の施行は、事業の発展を促進する機会になります。 断熱材、ソーラーパネル、EV向け資材など、化学製品に対す るニーズの高まりもその一つです。しかし、現場の状況はど うなのでしょうか？企業は2026年までにコンプライアンスを 達成できるのでしょうか？

アイルランドのアンダーライターにとって、回答はきっぱり とした「イエス」でした。それ以外の地域では、肯定的な回 答は得られませんでした。オーストリア、中国、フランス、 マレーシア、オランダ、スイス、トルコでは、現実的なのは 「部分的な規制遵守」だと感じており、タイとフィリピンの回 答は、市場がまったく軌道に乗っていないことが示唆してい ます。興味深いことに、フィリピンのアンダーライターは、現地企業がコンプライアンス違反が原因で、消費者からのボ イコットを受けたり、ブラックリストに載る可能性は低いと 認めています。また、調査においてフィリピンは「今後3年以 内に、持続可能なサプライチェーンに向けたコラボレーショ ンが実現する可能性は低い」と回答した唯一の市場でもあり ます。

持続可能な製品に対する消費者の需要は高まっているものの、 それがすぐに業界の新規事業につながるとは限りません。オー ストラリア、中国、ニュージーランド、トルコのアンダーラ イターは、自国の市場で新たな見込み客を獲得できる大きな チャンスがあると考えています。しかし、ハンガリー、韓国、 マレーシア、スウェーデン、アメリカの場合は、消費財の成 長見通しについては悲観的な見方をしており、フィリピンは 「可能性は低い」という回答でした。ブラジル、フランス、ア イルランド、シンガポール、ハンガリーのアンダーライター は、デジタルツールやAIによってビジネスチャンスがもたら される可能性を指摘し、ハンガリーのアンダーライターは、 グリーン製品ラベルや格付けによる潜在的なメリットを強調 しました。

課題：今後3年間の同セクターの最も差し迫った課題は何で しょうか？

1) 移行のコスト

新しいテクノロジーやクリーンエネルギーへの投資には、高 い資本コストがかかります。。現在、燃料価格の高騰によっ て経費が上昇する中、借入費用が高く、資金が相対的に不足 しているため、特に中小企業にとって、これはさらに困難と なっています。

2) 規制とコンプライアンス

環境規制の強化に伴い、クリーンエネルギーに移行する余裕 があるかではなく、移行しない余裕があるかが問われること になるでしょう。環境規制の厳格化は、化学製品企業に対す る規制当局の監視が強化されることを意味し、コンプライア ンス違反に対する罰金の発生や風評被害のリスクもあります。

3) グローバルサプライチェーンのナビゲート

化学業界は取引を行うサプライチェーンが長くなる傾向があ り、地政学的混乱（関税や貿易制限など）や各市場での政府 による法規制の格差に対して特に脆弱です。

ビジネスチャンス：今後3年間に起こり得る同セクターの最大 のチャンスとは何でしょうか？

1) 持続可能性への需要の高まり

安全で持続可能な製品に対する消費者の需要が高まり、大き なビジネスチャンスをもたらすでしょう。環境に配慮した製 品、再生可能エネルギーソリューション、廃棄物の循環型ソ リューションに対する需要は世界的に拡大しています。エネ ルギー集約型産業である化学産業は、石油・ガス価格の変動 の影響を受けやすく、費用対効果の高い代替品にメリットを 見出す可能性があります。

2) 研究開発におけるデジタル変革

AIなどのデジタルテクノロジーは、業界全体の研究開発プロ セスを変革しています。これは、持続可能な新しいプロセス や製品の発見と開発、新市場の開拓、エネルギー効率やサプ ライチェーン管理などの分野の改善に役立っています。

3) 先端材料への投資

化学業界におけるクリーンエネルギー投資は成長機会を生み 出していますが、これは化学業界分野に限った話ではありま せん。電気自動車や太陽光発電などの下流工程向けの先端材 料の需要も、化学業界にチャンスをもたらします。

今度はどこに向かうのでしょうか？

世界の化学業界は、2024年末まで に、新興市場とアジアからの需要に 牽引され、おそらく3.1%程度の回復 を遂げると思われます。インフレの 緩和とエネルギー価格の引き下げに よって、ある程度の成長は引き上げ られるでしょう。ただし、クリーン エネルギーへの移行、デジタル化、 循環型プロセスの導入、持続可能な ソリューションの実施には、多額の 財政投資が必要になります。業界の 変化に伴って、こうした流れに取り 残される企業も出てくるかもしれま せん。