カントリー・レポート 中国 2020

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2020/06/30

GDP成長率は2020年に急減速、さらなる下振れリスクの可能性も。

(JP) 2020 Country report China - Performance forecast

政治情勢

米中関係は貿易協定合意後も緊張が続く

中国の政治情勢は全般に安定しており、中国共産党(CCP)が強力な支配を維持している。習近平はCCP内で権力を固めており、鄧小平以降で最も力のある中国のリーダーとみなされている。

米国と中国は2020年1月にいわゆる「第1段階」の貿易協定に合意したものの、貿易戦争はまだ終結しておらず、両国の目下の懸案事項は貿易そのものよりはるかに広範に及んでいる。不平等な競争を強いられる直接投資や、知的財産権問題、世界経済における中国の役割にかかわる複数の側面、アジア太平洋地域での政治的影響力をめぐる競争の激化などがそれである。経済と政治秩序の原則について両国間に溝があることから、大幅な緊張緩和も包括的貿易協定もまだ視野に入っていない。

対立が続く米国と中国の行き着く先、つまり、両国政府間のバランス・オブ・パワーの関係が協力的なものとなるのか敵対的なものとなるのかが、アジア太平洋地域全体の政治経済秩序の未来を形成するだろう。

経済情勢

GDP成長率は2020年に急減速

新型コロナウイルスの感染拡大は2020年1-3月期(第1四半期)の中国経済に深刻な影響をもたらし、小売や卸売、旅行、娯楽、ケータリング、不動産、輸送、船舶が直ちにその被害を被った。中国のGDPは、2020年の第1四半期に前年比で6.8%減少した。売上が急激に減少する一方で給与や賃貸、利息の支払いは続いたことから、多くの企業で資金繰りが悪化した。感染拡大の前にすでにキャッシュフローが逼迫状態にあった民間企業で主にその影響が確認されている。大手製造業企業は2020年初頭に中国全土で操業を停止したことから、中国内外でサプライチェーンに大きな混乱が生じている。

中国政府はウイルスの拡散阻止に向けて速やかに反応し、包括的な移動禁止令を発動し検疫措置を実施したほか、都市全体を封鎖し、工場を閉鎖した。春節(旧正月)の休暇後の操業再開は様々な産業で先送りとなった。こうした措置とウイルスによる直接的な経済への影響は内需、鉱工業生産、投資、輸出に甚大な打撃を与えた。

封鎖が解除され、生産活動が再開するほか、大型の景気刺激策(金融緩和と、インフラ、消費、医療への追加財政支援)も実施されているが、経済成長は2020年に前年比で急激に悪化する見込みであり、成長率は1%を下回ると予想される

こうした景気低迷見通しの背景にあるのは、2020年1-3月期(第1四半期)に中国の製造業生産と鉱工業生産が壊滅的な打撃を被っている事実だ。包括的な経済の回復は、長引く内需の弱さによって制約されている。消費者は収入と雇用見通しの不確実性の中で自分たちの支出について慎重な姿勢を取っている。同時に、海外市場からの需要の低迷が中国の輸出に打撃を与えており、2020年には前年比で10%以上減少すると予想されている。欧州と米国における消費者需要の悪化とサプライチェーンの機能不全が中国経済に特に深刻な悪影響を及ぼしている。

複数の下振れリスクが残る

今後数か月間で中国が国内での新型コロナウイルス封じ込めに成功できるかはいまだ不明だ。加えて、世界的な感染がその深度、期間、経済的影響の点でこれまで以上に深刻なものとなり、世界経済を現在予想されているより深い後退局面に陥れる下振れリスクがある。そうなれば中国経済が2020年に大きく縮小するという事態も生じかねない。

米中貿易摩擦は引き続きもう一つの下振れリスクとなっている。2020年1月に米国と合意した「第1段階」の貿易協定は中国経済にある程度の安心をもたらしたが、中国の幅広い輸出品を依然適応対象とする米国の関税は今後も重石となるだろう。懸案問題(自国企業に対する中国政府の補助金や知的財産権の窃盗)が解決されていないことから、米中貿易戦争が再度過熱する可能性もまだ排除できない。

財政・金融政策が実施されているが、問題は巨額の債務

2020年第1四半期に政府と中央銀行は新型コロナウイルスの感染拡大による影響を緩和し、経済を支援する措置を直ちに実施し、食品や医薬品の供給、金融市場への流動性供給拡大、資金調達コストの引き下げ、企業に対する信用補完の強化などを行った。2020年5月、政府は経済支援、企業支援、雇用を強化するために、約5,000億米ドル相当の追加刺激策を発表した。

中国当局にはまだ、必要に応じて金融・財政政策を通じた追加の刺激策を講じる余地がある(中央政府の債務残高は対GDP比25%未満といまだ制御可能な水準にあるほか、国内で賄われている)。だが、インフラ支出を拡大しようにも適切な大規模プロジェクトがないという制限があるほか、不動産部門の押し上げを狙った措置も、経済に積み上がった巨額の債務により限定的となっている。

債務総額が経済の3倍の規模に迫る勢いで増加する傾向にあるため、金融安定は新型コロナウイルスの感染が拡大する前から優先順位の高い政策目標とされている。非金融企業の債務は対GDP比155%に達しているほか、家計債務も住宅ローンを中心に過去5年間で急増している。地方政府の債務残高は、オフバランス化された債務も含めるとGDPの60〜70%に達する。行政は、経済成長を支援すると同時に、中期的に秩序だった金融デレバレッジ(債務圧縮)プロセスを確保するという困難なバランスの実現を迫られている。

企業倒産件数は2020年に急増する見通し

中国では、景気減速や輸出主導型から消費主導型への経済再調整を背景に、過去2年間で企業倒産が増えている。フォーマル経済の拡大に伴い多くの低コストメーカーが廃業に追いやられている状況だ。業種別では、石炭・鉱業、製紙、プリント基板、繊維、造船、太陽光、鉄鋼・金属など、過剰生産能力を抱える産業、部門の重債務企業が引き続き脆弱だ。

2020年には、事業倒産率が約30%急増することが予想される。特に、業績が比較的好調な産業においても多くの場合限定的な資金調達手段しか持たない民間の中小企業で、倒産が顕著となっている。

「第1段階」の貿易協定が最近合意されたものの、対米売上への依存度が高い中国の企業は引き続き脆弱であり、鉄鋼や電気機械・電子機器、繊維、タイヤなど、米国の競合が「不公平な貿易」の終結を声高に求めている部門では特にその傾向が強い。