カントリーレポート インド 2020

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2020/06/30

新型他コロナウイルスがすでに弱体化している経済の打撃に。

Country Report India 2020

経済情勢

経済成長の急減速、金融セクターの不調が早期回復を妨げる可能性

インドの経済は2019年に5.3%拡大したが、年間伸び率としては過去6年超の最低であった。その主因は銀行貸付が大きく減少したことであり、これが内需を圧迫した一方、政府消費は力強い伸びを維持した。2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックを背景に、GDP成長率は5.7%21かうひゅうふい追加的手段も用いて、ほか、輸出もびは今年は約2のマイナスに転じると予想される。中でも、政府が3月末に導入した全土での都市封鎖が、これまでのところ内需に深刻な影響をもたらしている。社会的距離政策(ソーシャルディスタンス)と移動禁止令の遵守が叫ばれる中で失業が急増しており、家計消費の伸びは今年は約4%のマイナスが見込まれる。ロックダウン対策の緩和は6月上旬に始まったが、これまでのところ段階的で、一方でコロナウィルス感染者数は増え続けている。投資と産業建設はともに減少が予想されるほか、輸出も約13%以上の落ち込みを示す見通しだ。

産業の業績は悪化し、企業倒産件数は増加

新型コロナウイルスの感染拡大により中国からの供給混乱が長引いているため、耐久消費財や電子機器製造、医薬品といった輸入品への依存度の高い産業が打撃を受けている(65%を超える電子部品、および 更なる加工に必要な医薬品原料の約70%が中国から輸入される)。農業、食品、金融サービスを除く主要セクターのすべてで業績と信用リスク状況が悪化しており、企業の倒産件数は2020年に前年比で30%超増加すると予想される。

限られた財政緩和の余地

インド準備銀行(中央銀行)は景気を下支えするため、3月に政策金利を75ベーシスポイント引き下げ4.4%にした後、5月には40ベーシスポイント下げて4%として政策金利変更以外の追加的手段も用いてルピー相場の維持と市場への流動性供給を図っている。向こう数か月間で追加利下げが行われる可能性も高い。インフレ率は、中銀が中期目標とする4%(この上下2%が上限と下限)を下回る水準を維持すると予想される。

5月にインド政府は、3月に開始された以前の財政措置とすでに中央銀行が講じた措置を含め、2,660億米ドル相当の景気刺激策を発表した。この景気刺激策の主な焦点は、中小企業のための減税と国内製造業に対するインセンティブ、また低取得世帯への現金給付、医療費の増加である。

世界金融市場においてリスク回避の動きが強まったことから、2020年1-3月期(第1四半期)には新興国市場からの大規模な資金流出が発生した。財政赤字は2019年にすでに対GDP比4.4%まで拡大しており、2020年はさらに同約9%にまで膨らむ見通しだ。

とはいえ、インドの対外収支はここ数年間で著しい改善を見せており、これが為替リスクを緩和する要因となっている。経常赤字は、輸入需要の縮小と原油価格の下落を背景に2020年に対GDP比1%未満に減少する見通しだ。対外債務は持続可能な水準を維持しているほか(2020年に対GDP比22%の予想)、外貨準備高の輸入カバー月数が2019年に10か月まで上昇していることから、流動性状況も良好だ。インドは1970年以降一度も債務返済不能に陥ったことがないという実績を持っているため、資本市場での資金調達も問題なく行うことができている。

金融部門の根強い問題が回復を阻むおそれも

新型コロナウイルスの感染拡大以前からすでに、インドの金融部門は深刻な問題を抱えている。インフラ融資と建設を手掛けるインフラストラクチャー・リーシング・アンド・フィナンシャル・サービシズ(IL&FS)が2018年秋にデフォルトしたことで他のノンバンクの健全性について懸念が広がり、企業や個人の借り入れが困難となる信用収縮が生じた。消費者と企業向けの銀行融資の伸びが圧迫され、民間部門のインフラ投資が減少した結果、2019年の経済成長が抑制された。

2018年以降減少しているとはいえ、大きく積み上がった不良債権はインドの銀行のバランスシートにいまだ重くのしかかっており、2019年には銀行貸出全体の9%近くを不良債権が占めた。資産の質の悪化と低い自己資本比率は今も変わらない問題だ。高水準にある企業債務はインド経済の下振れリスクであり、企業と国営銀行のバランスシートがさらに悪化する可能性も排除できない。厳しい貸出状況が続く信用市場での根強い問題は、ロックダウン措置が解除された後の広範な景気回復を阻む要因となりかねない。

金融部門の深刻な状況と債務問題に対応する十分な措置を政府が講じるかは、いまだ不明だ。IL&FSのケースでは、政府は波及効果を回避するためにこれを監督下に置き、デフォルト後の支払いを保証した。加えて、政府は複数の大手国営銀行の資本増強も行っている。

政治情勢

依然安定感ある改革志向の政権

モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、2019年の下院選挙で大勝を収め過半数議席を獲得しており、2024年に予定される次回総選挙まで政権を維持すると見込まれている。新型コロナウイルスの感染拡大前は、銀行部門の不良債権問題の解決や、特定部門における海外直接投資の一段の自由化、インフラプロジェクトが重要政策事項と位置付けられていた。

2020年初頭には景気低迷をめぐり政府に対する世論の不満が一部で強まったほか、物議をかもした市民権法の改正が2019年12月に行われたことでイスラム教徒とヒンズー教徒の間で緊張が高まり、それが2020年2月の暴動へと発展した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とその感染拡大を阻止する封鎖措置(ロックダウン)により、差し当たりはこの緊迫した状況に歯止めがかかっているが、長引く不景気に多くが貧困に追いやられる事態となれば、社会的緊張は高まりかねない。このロックダウン措置により多大な被害を被っているのは、主に、大規模なインフォーマルセクターで働く何百万もの日雇い労働者と出稼ぎ労働者だ。