2021: 倒産の潮目の変化

エコノミックリサーチ

  • オーストラリア,
  • オーストリア,
  • ベルギー,
  • ブラジル,
  • カナダ,
  • チェコ,
  • デンマーク,
  • フィンランド,
  • フランス,
  • ドイツ,
  • ギリシャ,
  • 香港,
  • アイルランド,
  • イタリア,
  • 日本,
  • オランダ,
  • ニュージーランド,
  • ポーランド,
  • ポルトガル,
  • ルーマニア,
  • ロシア,
  • シンガポール,
  • 南アフリカ,
  • 韓国,
  • スペイン,
  • スウェーデン,
  • スイス,
  • トルコ,
  • アメリカ合衆国,
  • イギリス
  • その他

2021/03/24

要約

  • GDPが急減したにもかかわらず、2020年の企業倒産は引き続き減少した。この矛盾は、破産法の臨時調整措置と財政支援パッケージによるものである。
  • 支援策は段階的に廃止されていくことから、世界の企業倒産は2021年に26%増加すると予測される。
  • 2021年の倒産率は、2020年に政府主導で強力な措置を講じたオーストラリア、フランス、シンガポールおよびオーストリアなどの国々で最も高くなる。上記の国では措置が段階的に廃止されるため倒産が増加する。

2020年、企業倒産は増加すると、広く予測されていたが、そうはならなかった。むしろ、2020年の世界での企業倒産は14%減少したと予測されている。しかし、2021年には倒産が26%増加に転じる可能性がある。この倒産の増加は、トルコを除く、ほとんどの主要国・地域で見られるものと予測される。この増加傾向は驚くにはあたらない。2020年に倒産を異常に低く抑えていた臨時措置(破産法の修正、財政支援)が2021年には段階的に廃止されるからだ。全市場では実質的に、2021年末の倒産レベルは、2019年よりも高くなるだろう。

2021年の景気回復ペースは国によって著しく異なる

1年間の世界的景気後退を経験した後、2021年は回復に転じることが見込まれ、新たな希望を呼んでいる。世界のGDP成長率は2020年には3.7%と鈍化したが、2021年には成長率6.0%になると予測されている。ワクチンの導入ははすでに始まっており好ましい結果が今後ワクチンの可用性を押し上げるだろう。新型コロナウィルスの感染者数を抑えるため、経済活動の抑制が原因となり、2021年第1四半期の世界経済の成長は低調なままである可能性が高い一方、年末までにはGDPの成長は加速すると考えられる。

しかし、この展望にはリスクもあり、主にウィルスの変異とワクチン接種キャンペーンの成功に関わっている。ブラジル、フランス、イタリアおよびトルコなどの国では、新型コロナウィルス感染件数が多いままだ。ほとんどすべての先進国ではワクチン接種が開始されているが、第2四半期末までに人口の大多数に接種するには、接種ペースを加速する必要がある。この点ではイスラエルが先んじている。すでに新型コロナウィルスの感染者数は著しく減少し、入院患者数も明らかに減少している。英国および米国も平均より良好である。ヨーロッパの多くの国ではペースが遅い。夏までに人口のかなりの部分に接種するにはペースを加速する必要がある。

2021年のGDP回復ペースは国によって著しく異なる。ユーロ圏では2020年にGDP6.8%の縮小が見られた。しかし、同年第4四半期は前四半期比0.7%というわずかな減少だった。新型コロナウィルスの抑制策が再度課されたことを考慮すると、予測より良い数値である。ロックダウンの継続とワクチン接種の遅れにより、2021年第1四半期には景気後退の二番底となる可能性が高い一方で、明るい見通しもある。ワクチン接種プログラムが本格化し、保険医療制度への圧力が弱まるにつれ、封じ込め措置は段階的緩和に向かっている。これは第2四半期の景気回復を導き、2021年のユーロ圏のGDP成長率は4.2%になると予測される。2020年に最悪の景気後退を経験した国は、2021年には全般的に最も強力な拡大を目にするであろう。景気回復の強さを決定する要因は複数ある。第一に、ロックダウン措置の厳密さと、解除の速度である。ポルトガル、イタリア、スペインおよびアイルランドの昨年のロックダウン措置は比較的厳しく、これら各国のサービス消費は低く抑えられた。反対に、オランダ、オーストリアおよびフィンランドの措置は比較的緩かった(ただし、オランダでは、2020年末に向かって措置は引き締められた)。封じ込め措置のリバウンドは2021年に「テクニカルリカバリー」を引き起こすであろう。スペイン、フランス、およびイタリアなどの諸国では、2021年の経済成長率は比較的高くなることが予測されているが、オランダやオーストリアでの回復レベルは低くなることが予測される。

第二に、業界の構成もGDP成長の強さに影響する。ポルトガル、スペイン、ギリシャ、イタリアおよびフランスでは、経済に占めるツーリズムの重要性が高いため、2020年のGDPは記録的な悪影響を受けた。ツーリズムや旅行への制限が段階的に解除されるにつれ、サービスに対する需要は増え、これら諸国の経済回復を下支えすると考えられる。しかし、感染リスクを避けるため、旅行を控える人々もいることから、ツーリズムのトレンドは2021年には完全に回復しないと見られる。さらに、ワクチン接種のペースは国ごとに異なるため、各国政府は国境を開きたがらない可能性がある。

英国は厳しいロックダウン措置とEU離脱の不確実性のため、2020年には厳しい景気後退を経験した(GDP -9.9%)。2021年1月には、より感染力が強い変異株ウイルスによる感染の急激な増加を受けて、英国政府は3回目となる全国的なロックダウンを実施した。これにより2021年始めの経済は足場が弱くなった。良いニュースとしては、英国とEUが最終的に自由貿易協定に合意し、合意なき離脱と比較して、共通市場から離脱するコストを限定できたことだ。私たちは、2021年の英国経済は5.9%成長すると予測している。これはパンデミックによるGDP損失の半分程度しかカバーしない。ワクチン接種プログラムが順調に滑りだしていることから、ロックダウン措置が第2四半期までに緩和されると予測している。

ヨーロッパ以外では、米国での2021年に7.0%という強い景気回復が期待される。2020年9月の私たちの倒産予測レポートから、3ポイント上方修正している。7.0%の成長率は、2020年に見られた経済的損失を十分に補填する。ジョー・バイデン大統領は最近、アメリカ救済計画法といわれる1.9兆ドル(米国経済全体の8.3%)の大規模な経済刺激パッケージに署名した。さらに、米国でのワクチン接種が現在のペースで続けば、初夏までに集団免疫(成人人口の70%が接種済)が得られるであろう。こうした要因により、ウイルスへの恐怖がなくなり、活動制限の緩和が可能となり、景気回復が下支えされると考えられる。

オーストラリアはウイルスを効果的に抑え込んでおり、最も対策に成功している先進国の一つとして評価されている。一つの症例が検出されたことに反応し、パースを5日間ロックダウンしたことは、政府の対応の迅速性を示している。オーストラリアは2020年に比較的穏やかな景気後退(-2.4%)を記録したが、2021年はGDP3.5%成長となる可能性が高い。

日本は2020年にGDPの4.9%縮小を経て、2021年には部分的に2.7%回復する可能性が高い。日本は2020年末に向けて感染数が増加し、緊急事態宣言を発令した。現在、この措置は国内のほとんどの地域では解除されているが、東京とその近隣三県は3月末まで制限が課される予定である。制限は景気回復に影響するものの、ワクチン接種の開始や米国および中国の強力な景気回復が年半ば以降の経済活動を下支えすると考えられるため、全体的な影響は軽度となる。

2020年の倒産発生とGDPパフォーマンスの矛盾

2020年には、企業倒産が増加すると、広く予測されていたが、そうはならなかった。ほとんどの市場でほぼ通年に近い年間倒産データがあるが、全体的に2019年比で減少を示唆している。2020年の世界の企業倒産は14%減少したと見積もられている。特にヨーロッパとアジア圏では著しく減少し、北米では比較的緩やかな減少だった(表1参照)。

1 Insolvency outlook 2020
2 Insolvency outlook 2021

前回の倒産レポートでは、倒産の増加とGDPパフォーマンスに生じる矛盾は2種類の政策に起因すると述べた。第一に、ほとんどの国が、企業を倒産から守るために破産制度を変更した。第二に、世界各国の政府は、感染による経済に対する影響を弱め、小規模事業者を支援するための対策を講じてきた。ヨーロッパのフランス、ベルギー、イタリア、スペインなどの国では、倒産手続きを一時的に凍結したり、倒産を許可しない法律を2020年に制定した。ヨーロッパ以外では、オーストラリアが企業が倒産を宣告する際の債務の基準値を引き上げた。上記すべての国々では、2020年に倒産数の急減が見られる。

スウェーデン、デンマーク、オランダ、アイルランド、日本、米国などの国々は、新型コロナウイルスへの対応として、破産制度に大きな変更を加えていないので、倒産数の減少は急激ではない。2020年11月以降、オランダでは、苦境にある企業が倒産手続きを一時的に保留し、支払い猶予を申請できる時限立法が施行された。

破産法の変更に加えて、財政支援策も倒産レベルを低く抑えるための重要な役割を果たしている。

この仮説は、一時的な破産猶予策を行った複数の国では、これらの政策が解除された後も、倒産レベルが低いままであるという見解に基づく(フランスやスイスなど)。さらに、スペインでは、倒産の一時猶予策が実施されているにも関わらず、2020年後半には前四半期比で倒産件数の急激な増加がみられた。最も効果的な政府施策は、直接的な財政支出と税の減免措置である(IMFが融資または株式発行による増資などの「経常費以下」に対して、「経常費以上」と分類しているもの)。大規模な財政支援策を実施しているヨーロッパの国々は、ドイツ、フランス、オーストリア、ベルギー、オランダ、英国である。ヨーロッパ以外では、米国、カナダ、オーストリア、日本が巨額の財政支援パッケージを実施し、2020年のGDP縮小と比較して、倒産レベルを非常に低く抑えることに貢献している。トルコとアイルランドは2020年に倒産の増加がみられた唯一の市場である。トルコの場合、明らかに政府支援が脆弱であった結果である。一方、アイルランドの場合は、新型コロナウィルスに関わる破産の枠組みを調整しなかったためである。

企業倒産は世界中で26%増加すると予測

2021年には、財政支援および破産法の緩和が段階的になくなることから、倒産件数の減少の様相は完全に変わると予測される。これにより、2021年には主要な地域および諸国で倒産件数が増加し、世界全体では26%の増加が予測される(表2参照)。破産法の一時猶予は2021年の上半期に終了すると予測される。オーストリアとフィンランドでは、通常の破産法の一時的な適用中止については、2021年の第1四半期には解除される。オーストラリアでは、2021年1月1日から通常の破産手続きを再施行する。オランダは一時猶予措置を2021年4月まで延長する。複数の国々では、現時点で、財政刺激策が2021年第2四半期まで延長される見通しである。2021年第2四半期以降は、封じ込め措置の大幅な緩和が予測されており、結果として財政支援の段階的終了および倒産の一時猶予の解除が予測される。

2021年倒産予測を成り立たせる3つの影響力

倒産予測を成り立たせる第一の影響力は、通常の状況下(財政支援パッケージなし、倒産の一時猶予なし)で2020年に発生していたはずの倒産の影響の遅れである。私たちは、この種類の倒産は部分的に2021年に現実になると予想する。2020年に多くの企業を倒産から「救った」国々では、倒産が2021年に持ち越されていることが、2021年の倒産の上方予想に拍車をかけることになる。ベルギー、フランス、オーストリア、イタリアなど、破産法の臨時調整と大規模な財政支援を実施した複数の市場で、こうした現象が見られると考えられる。

3 Cumulative insolvency growth 2021/2019

ヨーロッパ以外では、昨年から今年への倒産の持ち越しが見られるオーストラリアとシンガポールが例である。スウェーデンとアイルランドでは、破産法に大きな変更を加えていないため、2020年からの倒産の持ち越しの影響は低いと予想される。

第二の影響力は、経済状況による倒産件数の増加である。これは、2021年の経済成長の強さと、GDP成長に対する倒産の感応度という2つの要因に依存する。複数の市場(オーストリア、スペイン、英国)では、回復度合いが2020年のGDP減少よりも弱く、倒産件数を押し上げる圧力になる。上記以外の国(ニュージーランド、カナダなど)では、2021年の回復は比較的力強く、倒産件数の増加を押し下げる圧力になる。GDP成長に対する倒産件数の感応度については、オランダ、スペイン、オーストリアでこの「倒産弾性」が高い。私たちは結果として、2019年から2021年にかけて、倒産件数が著しく増加していくと見ている。上記3つの市場におけるGDP成長に対する高い倒産弾性は、債権者に非常に有利な厳しい破産法の帰結である。しかし、スペインでは、難局にある企業に清算ではなく再編を選ぶことを奨励する改正が2014年に施行された。オランダとオーストラリア両国は2020年に破産法を改正している。オランダの新法により、正式な破産手続き以外での企業の再編が容易になるオーストラリアも同じことを目指す改正法を施行した。オーストラリアとオランダは双方とも、米国の連邦倒産法第11章を参考にしている(オランダの場合、英国のスキーム・オブ・アレンジメントも参考にしている)。これにより、将来的にGDP成長に対する倒産弾性の変化が考えられる。スペインにもある程度同じことが言えるが、スペインの場合は根本的な改正ではない。

4 Insolvency matrix 2021/2019

2021年の倒産予測を成り立たせる3つめの影響力は、財政支援である。政府支援スキームについて、私たちは2021年の前半まで継続するが、先進国の人口の大部分がワクチン接種済みとなる後半には、直ちに次々に廃止されると予想している。そのため、財政支援は概して一年の前半にしか行われないと考ええている。

つまるところ、これら3つの影響力により、トルコを除くすべての市場で、2021年における倒産件数は前年比で増加することになる。トルコをみると、2020年時点ですでに倒産件数は増加しており、2021年への倒産の持ち越しが少ない。また財政支援も脆弱である。2021年に倒産件数が大幅に増加すると説明できる要因は、一時的な倒産の凍結と財政支援パッケージによって2020年の倒産件数が特に低かったことが挙げられる。これが強力な「ベース効果」を生み出す。2019年から2021年の間の累積倒産件数の増加を見ると、2021年末における全市場の倒産レベルは2019年よりも高くなると考えられる(図3参照)。2020年には大幅に景気後退し、2021年になってもほとんどの国が完全回復できないことを考えると、これは驚くことではない。私たちは、今後数年間、倒産レベルは上昇傾向を維持すると予想する。財政支援パッケージの段階的廃止、および通常の破産手続きへの回帰により、事業環境は引き続き非常に厳しいといえる。

 

Theo Smid, Senior Economist
theo.smid@atradius.com
+31 20 553 2169

Iulian Ciobica, economist
iulian.ciobica@atradius.com
+31 20 553 2121

 

All content on this page is subject to our Disclaimer, available here.

関連ドキュメント