カントリー・レポート シンガポール 2020

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2020/06/30

The economic contraction will lead to a sharp increase in business insolvencies.

(JP) 2020 Country report Singapore - Performance forecast

政治情勢

安定した政治情勢                    

シンガポールが独立した1965年以降、一貫して政権を担ってきた人民行動党(PAP)は産業界寄りの立場をとっているが、西欧の標準と比べると、個人の自由は制限されている。野党勢力は弱く細分化されており、公の場に出る機会は極めて少ない。2015年9月に行われた前回の総選挙でPAPは70%近くの得票率を達成し、国会の議席数89議席のうち83席を獲得した。

シンガポールの人口構成は、中国系(77%)、マレー系(14%)、インド系(タミル族、ヒンズー教徒)(8%)、その他(1%)である。所得の分配は比較的平等であり、隣国マレーシアとは対照的に、人種間の敵対はほぼない。安全面での最大の潜在的脅威は、自国出身者や外国籍のイスラム過激派によるテロ攻撃の可能性である。

経済情勢

大型景気刺激策にもかかわらず2020年には景気後退の見込み

都市国家のシンガポールは、東南アジアの主な交通、金融サービスのハブとして機能している。小国にしては経済の多角化が比較的進んでいるが、国際貿易への高い依存度とアジア地域のサプライチェーンへの統合、医薬品や電子機器などの特定セクターへの注力から、脆弱性は高い。

2019年以降は、世界貿易の縮小や貿易政策の根強い不透明感、中国からの需要減少、世界的な情報通信技術(ICT)需要の循環的弱さが、シンガポールの輸出主導型経済に直接的影響を及ぼしている。高価値ハイテク製品の輸出、特に、加工・組立のために中国に輸出される中間財の輸出が減少している。経済成長は2019年に0.7%に減速した。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、2020年初め以降深刻な景気縮小が生じている。サプライチェーンの混乱と外需悪化が打撃となって輸出は今年上半期に大きく後退し、通年では13%超の急激な落ち込みを示すと予想される。世界各国でロックダウンが行われるなか、鉱工業生産も今年2%超の減少が見込まれる。新型コロナウイルスの拡散とその封じ込めに向けた政府の対策、観光業の停滞により、内需は低迷を続けている。シンガポール国内での一段のウイルス感染拡大は、引き続き下振れリスクとなっている。

シンガポール政府は景気を下支えするため、2月から5月の間で4回の大型景気刺激策を開始した。総額930億シンガポール・ドル(670億米ドル)、またはGDPの約19%に達するこれらの政策は雇用の保全と資金繰り難に陥った企業の支援を狙ったものだ。この刺激策には、拡充された賃金補助や自営業者への現金給付、低所得労働者への支給額引き上げなどの措置が含まれるほか、影響が最も深刻な産業を対象にした固定資産税の減免、中小企業への支援パッケージと融資にも予算が振り分けられている。同時に、中央銀行は景気浮揚のための金融緩和を行っている。

こうした包括的措置にもかかわらず、シンガポールのGDPは2020年に6%程度、またはそれ以上に縮小する見通しだ。縮小の規模は、新型コロナウイルスの今後の世界的な感染拡大の程度、そして、シンガポールの経済とその主要貿易相手国の経済が回復基調に転じるまでに受ける影響の期間と深度、金融市場からの追加的な波及効果が及ぶ期間とその度合いに左右される。それでも、低いソブリンリスクと強固なマクロ経済ファンダメンタルズ、潤沢な外貨準備高という点で、この都市国家が世界有数の強国の一つであるという事実に変わりはない。ウイルス拡散が今後数か月間で封じ込められる場合には、経済対策と繰延需要により2021年には約7%のGDPの反発が見込まれる。

企業倒産が急増

企業支援に向けた政府の措置はプラスの効果をもたらすと予想される一方で、企業の倒産件数は2020年に急増する見通しだ。企業倒産の中心はサービス業(特に観光関連の企業、宿泊と食品サービス)、耐久消費財小売業、建設業となるだろう。サービス生産業は2020年1-3月期(第1四半期)に前期比で15%超縮小している。

建設業部門では、住宅と商業用建物の建設が減少する中で企業の倒産件数が2019年にすでに5%増加している。建設プロジェクトの不足や競争激化、労働コストと賃貸コストの上昇を受けて特に中小の下請業者が資金繰り難と利ざやの悪化に見舞われている。建設業生産は2020年第1四半期に前期比で20%超減少した。