販売価格の引き上げでも仕入れ価格の高騰を補えない
自動車や建設などの主要なバイヤーセクターからの旺盛な需要に加え、2020年から2025年の間に1.4兆ドル相当のインフラ整備(道路、鉄道、港湾、空港の建設)への政府支出が増額されたことで、インドの金属・鉄鋼業セクターは多大な恩恵を受けています。
しかし、サプライチェーンの混乱や投入価格の高騰が問題になっています。金属・鉄鋼の販売価格の引き上げでは、エネルギーや原材料のコスト(原料炭、燃料炭、耐火材、合金鉄)の高騰を補えないからです。今年5月、インド政府は原料炭などの輸入関税を撤廃した一方で、インフレ抑制と国内市場の供給拡大のため、鉄鋼製品に輸出関税を課しています。その結果、生産能力が過剰となり、鉄鋼完成品の価格が約20%下落しました。したがって、2021年の利益率の上昇は、2022年には続かないと思われます。ただし、政府が関税を再度削減または廃止する可能性もあり、主要な鉄鋼製品の輸出を促進し、国内市場での販売価格の低下を部分的に補うことになると思われます。EUがロシアからの鉄鋼輸入禁止措置を取ったことで、インドの鉄鋼輸出業者にとっては商機が広がることになりそうです。
インドの金属・鉄鋼セクターの支払いは、平均で90~120日か かります。過去2年間、企業の業績は好調で、財務リスクのプロファイルは改善されています。同時に、統合プロセスで、資本力 のある企業が不良債権や倒産した同業他社を引き継ぐケースも見 られます。今後12か月間、支払遅延の件数は安定的に推移し、倒 産件数の大幅な増加はないと予想されます。
現在、インドの金属・鉄鋼分野の信用リスク状況は、原材料価格の高騰が利益率に緩やかな影響を与えており、すべての分野で「Fair(良好)」と評価されています。しかし、今後数か月は輸出の伸びが加速し、販売価格の引き上げにつながるものと思われます。財務体質の改善に取り組んでいるにもかかわらず、ほとんどの企業は設備投資を銀行融資などの外部資金に大きく依存しているため、借入率が高くなっています。短期的には、仕入れコストの高騰により、必要な運転資金が増加する可能性があります。
関連ドキュメント
1.51MB PDF