カントリーレポート タイ 2020

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2020/08/20

2019年の経済不振後の主要課題。

Country Report Thailand 2020 | Atradius

政治情勢

軍の統制が当面続く

2019年に軍事政権は形式上幕を引いたものの、新政権に対する支配力を維持している。2019年3月の総選挙では、プラユット・チャンオチャ首相率いる新軍政政党の国民国家の力党(PP党)を中心に連立政権が誕生する結果となった。前軍事政権が上院を全員指名し、閣僚人事も主要ポストを複数の元軍司令官で埋めることで軍の支配が一段と確保されている。

政治情勢は当面安定が続くものの、南部の旧体制派(軍、司法、都市部上流階級)と北部の地方貧困層との間に深い溝を作っている政治的、社会的、経済的格差がもたらす一触即発状態の緊張はまだ解消されておらず、すぐに解消される見込みもない。失業率と貧困の双方が増加(国家補助の申込者が約2,000万人に上り、労働人口の三分の一は失業に直面)するなど、この緊張は進行中の経済危機によって悪化する可能性がある。現在の経済悪化が長引けば、社会不安が引き続き下振れリスクとなる。

経済情勢

2020年は経済の急速な鈍化が見込まれる

タイの経済はすでに、2019年に低迷の兆候を示しており、GDP成長率は2.4%に低下していた。家計消費は依然として好調であったものの、固定投資の成長が減速していた。世界貿易の低迷、米中貿易摩擦およびバーツ高によって、工業生産と輸出がどちらも縮小となった(それぞれ3.8%と2.6%)。

コロナウイルスの世界的なパンデミックは、2020年初頭から経済活動に深刻なマイナス成長をもたらしており、今年のGDPの縮小は5.7%を見込みである。輸出(主に電子機器および自動車)は、サプライチェーンの混乱と国外需要の悪化による影響を受けて、今年は16%を超える急激な縮小が予測されている。工業生産は10%を超える減少が見込まれ、自動車および電子機器の各セクターの付加価値は、それぞれ12%の縮小が予測されている。

政府による感染拡大の抑え込みのための施策と観光業の停止状態は、引き続き国内需要に打撃をもたらしている。民間消費は、失業率の増加と高レベルの家計債務による追加支出の抑制によって、約2.6%の収縮が予測される。新型コロナウイルスの影響は特に国内観光業に顕著に見られ、サービスセクターの成長を圧迫している。観光業はタイのGDPの10%超を生み出す産業であり、中国人観光客が観光収入の25%超(2019年)を占めている。4月に旅客便の到着が禁止され、2020年上半期には外国人観光客の支出が前年比65%減少した。

金融・財政政策が進行中

経済支援を目的に、中央銀行は2020年初頭に政策金利を3度引き下げて0.5%にした。このほかの施策には、特別融資枠の提供と債券市場の支援が挙げられる。3月から4月にかけて、政府が明らかにした三つの刺激策パッケージはGDPの約10%に相当し、企業向けの税額控除および労働者や農家への給付金が含まれる。中央銀行との密接な連携によるこの刺激策は、金融セクターを安定させ、中小企業への金融支援を提供するねらいもある。

インフレ率が低水準にあり、巨額の対外黒字がバーツ相場を支えているため、金融緩和を追加する余地はまだある。タイの銀行セクターは健全であり、銀行は十分な資本を備えている。タイ・バーツは管理変動相場制度の下にあるため、変動リスクは軽減されている。

財政赤字は2020年に急激に増加するが、政府の財政状況は引き続き持続可能である。公債が2020年にGDPの約43%に増加する見込みがある一方で(2019年はGDPの34%)、大半は国内で資金調達されるため、外的ショックへの底固さをもたらしている。対外債務レベルは増加しているが、引き続き持続可能であると共に、外貨準備は適正レベルで、輸入額の12カ月以上を超える備えがある。

将来の成長の増加を妨げる可能性のある要素

コロナウイルスのパンデミックが2020年中に封じ込みが可能で、世界経済が復旧し始めるという想定において、タイ経済は2021年に7%を超えるの回復が予測される。ただし、中長期的に堅調な成長を妨げる可能性がある要素がいくつか存在している。

政府は、巨大インフラプロジェクトを推進し、大規模特別経済区の設置による海外投資家誘致を継続する見通しだ。ただし、経済実績はすでに、この10年間にわたってかなり期待を下回っている。2009年から2019年のタイの年間GDP成長率は平均3.6%で、近隣国のマレーシア(5.3%)やベトナム(6.5%)に後れを取っている。タイの高い家計債務(2019年にGDPの75%超)は、引き続き経済への下振れリスクとなっていると共に、地域における競争力は、高い賃金レベル(例:ベトナムとの比較)によって低下している。同時に、生産年齢人口の割合が2020年の65%から2040年に56%に減少する見通しとなっている。これは、長期的に経済成長の重大な減速要因を生み出すものと想定される。